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二月は紫水晶(三)
紫苑の家系には男が少なかった。母が婿養子にもらった夫は肩身が狭く、常に勤務に忙しいといった体で家に戻らないことが多くあった。紫苑の上には姉が二人いたが、男の兄弟はおらず、従姉妹ばかりで遠縁の伯父にあたる人がいるらしかったが、あったこともなかった。祖父もすでになくなり、実に男っ気のない家系で、教師、医者、美容師など異性たるものに触れる機会があると、緊張を覚えずにはいられないというのが正直なところであった。
そこに登場したこの倉橋探偵。紫苑にとっては珍しいタイプのヒトであり、なにをどうして楽しもうやら考えあぐねていた。