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六月は金緑石(七)
特に興味もなく急ぎもせずのらりくらりとやって来た紫苑が見つけたのは、翠姫だった。
「やぁ、やっと来たね。」
少女漫画から飛び出たしてきたようにボーイッシュな笑顔は周りの少女たちを釘付けにする。
「紫苑さん、お知り合い?」
積極的な曽根崎などは、普段は紫苑に話しかけもしないくせにここぞとばかりに声をかける。
「なにしに来たの?」
やけにツンとした態度を見せる紫苑に対し、姉はなおさらやさしく話しかける。
「近くまで来たら雨が降り始めたからさ、心配になって。」
自分の傘の下に妹を招きいれようとするしぐさを見せる姉に対して、妹は反抗的な眼差しを緩めることなく、お気に入りのフリルが付いた折りたたみ傘を一回転させる。
「けれど、心配無用だったみたいだね。」
「ええ。でも、折角だから、ケーキくらいはごちそうしてもらってもよくてよ。」
「そうこなくっちゃ!」
姉と妹はそれぞれに傘をさしたままではあるが、横に並んでさっそうと舗道を歩いていった。少女たちの羨望の眼差しを受けたまま。