五月は翠玉(一)
親友の哉子が預かって欲しいと手に握りしめたなにかを渡してきたとき、日が沈んだばかりの薄暗い田んぼの周囲は、新芽の強い匂いに包まれていた。
「家に着くまで見ないで。」
そう言った哉子の眼差しが、どこかはかなげで、さみしげで、そんなことが気になって潤子は右手を握りしめたまま帰って来た。ただいまも言わず自分の部屋へたどり着き、電気も点けずに手を開いてみた。部屋の中はすでに暗くなっていて、なにも見えなかった。慌てて机の上の電気を点へようとした。慌ててそれをどこかへ落とした。大慌てで部屋の電気を点けようと入口へ向かうと、部屋の真ん中の卓袱台の脚に右足の小指をぶつける。あまりの痛みに「うああ」と大声をあげる。階下から母が「なにー、だいじょうぶー?」と声をかける。痛みをこらえながら、母が部屋に近寄らないよう返事をする。
「だいじょーぶーっ!」
入口にたどり着いて電気を点ける。机の上に「落とし物」は見当たらない。卓袱台の上だけでなく、部屋の中はいつもどおり、そこそこ荒れている。
足をぶつけないように卓袱台を気にして机に戻る。机の上を隅から隅まで見るけれど「落とし物」は見当たらない。机の下に潜って、壁側も見てみるけれど、見当たらない。四つん這いになって、机の脚の周りをよくよく見てみると、普段、ウチにあるはずのないそれがあった。
楕円の、深い緑色の、多分、宝石。