四月は金剛石(一五)
駅を駆け抜け、ちょうどホームに到着した電車に乗り込んださくらはドキドキしていた。この激しい鼓動は駆け足で来たからか、わけのわからないダイヤモンドを父に託して逃げ出して来たからか、よく分からなかった。いつもより少し遅めの車内は少し空いているようにも見えた。学校にはもう完全に遅刻する時間であり、言い訳を考え始めた。滅多に座れることなんてないのに空いてる席が目立った。座ると、窓の向こうには普段見ることができない美しい景色が見えた。斜向かいには美しい女性がいた。この電車でときどき見かける際立ってキレイな女性、きっとモデルさん。こういう人にはあのダイヤが似合うと思って、さくらはしばらくその女性に見入ってしまった。不意に目が合った。そのキレイな女性はほほえみかけてくれた。咄嗟にさくらは恥じらって目を反らした。そして、この人がダイヤをくれたんじゃないかと考えた。
きっとそうだ。私に近づこうとして、きっかけにあのダイヤをくれたんだ。なのにどうして私はアレをお父さんに渡してしまったんだろう!
さくらは痛く後悔し始めた。次の駅に到着すると、その女性は下車した。電車のドアの向こう側、ガラス越しではあるけれど、彼女はさくらに向かってまた微笑んでいた。電車がホームから見えなくなるまで、美しいその女性はそこで微笑んでいた。