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三月は藍玉(一二)
藍はなんだか一日気持ちが落ち着かず、早くに家へ帰って来た。玄関にも、自分の部屋にも、毬鈴の姿はなかった。いつもなら玄関口で「お帰り!今日はどんなだった?」って、うるさいくらい聞いてくるのに。
阿久愛の部屋へ行くと、同じように感じている姉がいた。今朝から毬鈴の姿がないのだと。そして、三人のアクアマリンがいつもよりやけに光り輝いているのだと。いつもは専用の箱に収められているそれを見せてくれた。強い青の光が放たれていた。
「なんで…いま?」
弟の問いに姉は首を横に振った。そして無理にこう付け加えた。
「夜になったらまたヒョッコリ出てくるでしょ。明日の朝か、明後日かもしれないけれど。」
「そう…だよね。」
「そうよ!突然いなくなったりするわけないでしょ!一四になるまで死んだって自覚がなくて、受け入れなくて、一四の姿から成長することなくなって…でももう三年だよ!」
「そうだよ!受け入れてから三年も経つのに、なんにもなかった昨日の次の日、突然いなくなるなんてありえないよ!」
姉弟は毬鈴に聞こえるように、大きな声で語りかけていた。