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三月は藍玉(五)
家族でカレーを食べ終え、洗い物は両親に任せて阿久愛は風呂に入った。湯船に浸かっていると、もちろん毬鈴がやって来た。
「満足?」
「うん。」
「今日のカレーもおいしかった?」
「とっても。」
「そっか、良かったね。」
「うん。」
二人はしばらく黙ったままでいた。
「髪の毛、洗ってあげようか?」
「いい、自分でする。」
「背中流してあげるよ。」
「いいの、自分でするから。」
「たまには洗わせてよ、前みたいに。」
「いい。」
「おねがい。」
「イヤだ。」
「阿久愛、新しいタオル、置いとくわよ!」
「ハイッ!」
洗面室まで母が入って来たことにきづいていなかった。毬鈴はビクリとして硬直した。湯船の中で阿久愛は人差し指を口の前に立てて、話をしないようにと合図した。
母はときどき、阿久愛は独り言が激しいと思い込むようにしていた。