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三月は藍玉(三)
ある日のこと、阿久愛は落ち込んでいた。気持ちが落ち込めば落ち込むほど、阿久愛は料理に励むのだった。この日も、帰りが遅い父母のため、カレーを念入りに作っていた。阿久愛がひときわ落ち込んだときに丁寧に丹念に作るカレーは家族の間では「怨念カレー」と呼ばれていた。
阿久愛はモノも言わずに黙々と粛々とカレーを作る。肉を、野菜を、丁寧に細かく切る。
「話してよ。またなんかあったんでしょ?」
無邪気な調子で話しかける毬鈴を阿久愛は無視して、玉葱のみじん切りを続ける。かなり細かく刻んでいる。早いスピードで、まな板を打つ包丁の音が強めに聞こえる。毬鈴は指折り百まで数える。
「ねぇー。」