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二月は紫水晶(九)
「ええ、今日のところは。」
倉橋探偵は席を立ち、伝票をつかみながらそう言った。
「また会えるってこと?」
倉橋探偵は椅子をテーブルの下に戻してしまい、紫苑を見下ろしてこう言った。
「また…会いたいですか?」
紫苑はストローを指でもてあそびながら、上目遣いでこう聞いた。
「知りたいんでしょう?もっと、アメジストのこと。」
「教えてくれる気があるんですね?」
夕日が差し込む喫茶店。ほぼ満席で大声で喋る人もいたが、二人はお互いの顔を見合わせたまま、一切の雑音はかき消されていた。
「次、また会えたときには。」
紫苑がそう言ってから一、二、三秒が過ぎた。
「じゃ、また今度!」
倉橋探偵は右目を覆うようにピースを横にして見せた。昭和な感じではあるが、なんと素敵な笑顔を見せてくれたことだったか。そして探偵は颯爽とその店を後にした。