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一二月は灰簾石(六)
その若い男はカウンターの前に立ち、颯爽と胸のポケットから長財布を取り出し、新札を一枚取り出して会釈をするような動作を見せてからカウンターの上に置き、早速にも立ち去ろうとした。ドアノブに手を掛ける前にようやっとマスターは声を放った。
「これは?」
マスターの視線はカウンターテーブルの上、高貴な蒼紫を放つネックレスの石に注がれていた。
若い男は深々とお辞儀をし、三秒ほども頭を下げたままの姿勢でこういった。
「駅長さんが持ち合わせた拾得物でしょうか。」
そう言い終わってから姿勢を正すと店内を見廻しながら、付け加えるようにこういった。
「だって今夜は、ほら、私たちのほかに客はないようだ。」
男はもう一度軽くお辞儀をしてからくるりとドアに向き直り、パタンとドアを締めて出て行った。