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一二月は灰簾石(三)
店内の掃除を終えてしまったマスターは、カウンターの向こう側で本を読み始めた。さすがに龍美は店を出たほうがいいかと考え始めた。カズさんはもうすぐにも来るだろうけど、お店の人に悪いのも確かだ。なんだかんだと言い訳がましく考え事をしてグズグズしていたところ、店の扉が開いた。龍美は期待を込めて入ってくる人に見入った。
「やぁ、今日は随分晩くまでやってるねぇ。」
駅長らしい人だった。マスターは平然とした顔で答えた。
「そろそろあんたが来る頃じゃないかと思ってね。」
駅長さんは龍美の方をチラとだけ訝しげに見たけれど、彼女には背を向けるようにカウンター席に背を向けた。
マスターは読んでいた本を開いたまま伏せると、カウンターの向こう側の、流し台の下の方からウィスキー瓶を取り出すと、駅長らしい人の前にピカピカのグラスを置いて少しだけ注いでやった。