114/129
一一月は黄玉(二〇)
声をかけたのは東海林の妻、明子の方だった。誰がどう見ても申し訳無さそうに話した。
「先生、紫衣ちゃん、さっき来てすぐ行っちゃったのよ。なんだか前のお客さんとこで長引いて、ウチの後のお客さん待たせられないからって…」
希依は拳を握った。強く、強く握って、それえでも目の前のこの老女には怒りをぶつけないようにした。
「…分かりました。」
笑顔こそは見せてやれなかったものの、細々とやっと出した声は震えてしまった。そしてまた木曜日までを悶々として過ごすのかと思うと、とてもやり切れない思いに打ちのめされた。