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一一月は黄玉(一九)
とにかくその日はもう帰るしかなかった。降谷と里見は心配して、それでも距離を置いて、尾行するような形で希依を送っていった。
希依は悶々としていた。榊田紫衣、悪い噂、失くしたネックレス…。金曜の夕方に始まった心のざわめきは彼女の週末をみすぼらしいものにした。頭の中で堂々巡りは続き、不快な気持ちを抱えたまま週が明けるのを待った。
目の下に立派な隈をこしらえて出勤したが、朝の一番から仕入れに来る業者はなかった。紫衣を逃さないよう、受け持ちの授業がない時間や休憩のたびにいろは堂の近くまで行ってみた。東海林に声をかけると問い詰めてしまいそうで、はばかられたのだった。ところが五時限目を過ぎても紫衣は姿を現さなかった。