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一一月は黄玉(一六)
「榊田さんは?」
希依の背後でそう言ったのは降谷だった。
「えーと…」
東海林さんはなんだか訳の分からなそうな顔をして、辺りを見回すようなふりをしてみせた。
「ほら、あの子のことよ。」カウンターの奥から奥さんが顔を覗かせながら言った。「しえちゃん!」
「ああ、しえちゃんのことかい。」
「あ…、はい、…えぇ。」
希依は自分のフルネームと似ている奇妙さをどこか不快に感じてしまうのを否めなかった。「さかしたきい」と「さかきたしえ」。しかも、降谷もそれに気づいたらしかった。
「月曜と木曜でしたっけ?榊田さんが仕入れに来るの。」
「そうそう。」
「どうかしたのかい、しえちゃん?」