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二月は紫水晶(七)
「ネクタイピン。」
「またこれお高い宝石が付いていたんでしょう?」
「オニキス。」
「ほほぉ、『夫婦の幸福』ですか。」
「そうね。お祖母様が求めていたのはむしろ『成功』だったとは思うけど。」
「深いですなぁ。」
「バカにしてる?」
「滅相もない。では、紫苑さん、あなたのそれ、アメジストは『誠実』ではないと?」
「…どうかしらね。」
紫苑はまた、ソーダ水をちょっと飲んで、窓の外を見やった。さっきから紫苑はときどき窓の向こうを見るため、倉橋探偵はよっぽど誰かを待っているのではないかと疑いたくなるほどであった。
でも、紫苑の目線に釣られて自分もそちらの方を見るのは癪だから、窓の外を見ないように必要以上に努力した。