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一一月は黄玉(一四)
「山野さん、私、あなたのお父様に会ったことはないわ。」
希依は山野の目を見入ってはっきりとそう言った。山野は五秒ほど黙ったまま希依の目を見つめた。それはまるで真偽の程を見ているかのようであった。周囲の人々はただ固唾を飲んでいた。
「そ。」
山野は突然向きを変えて歩き出した。周囲に残された生徒たちはヒソヒソ話を始めた。
希依は職員室へ入るのをやめて、山野が歩き出したのとは反対の方向へ歩き出していた。肩がいかっていて、希依の心の中のわだかまりを嫌と言うほどに言い表していた。