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一一月は黄玉(一三)
希依はとにかく職員室へ向かって歩きだした。入口に近づいてくると、二年三組の山野が近寄ってきた。杉下は取り立てて問題児というほどではないが、素行の目立つことがある生徒だった。
「坂下先生、」
山野が少し強めの口調で呼ぶと廊下に数人の生徒の視線が鋭く自分に向けられるのを希依は認識した。
「なあに?」
「先生、あたしの父親と会った?」
「あなたにお父さんがいたの?」と聞き返すことは希依にはできなかった。榊田のことが頭を過ぎりもした。
「答えてよ。」
山野が詰め寄ると同時に、皆の視線も強まる。