4.
「んん?あれ?なんで券が出てこないんですか?」
「いや、俺に聞かれても……」
「おーい!今きみが壊れたら困るから潔く食券出して―!」
「発券機に言っても分からないんじゃ……」
ってか俺、一文を損してない?このまま券が出なかったら?さすがに払い戻しがあるよな?
もし戻ってこなかった場合……三途の川の門番に「金が足りねぇ」とか言われるんだろうか。お金が足りなかったら、どうなるんだろう。まさか、地獄行き?
それは嫌だな!!
絶対に食券を出してもらうか、一文を返してもらわないと!
そう思った時。女性が「ふぅむ」と膨れっ面のまま腕を組んだ。可愛い顔の眉間に、シワが寄っている。もしかして……
「どうしましょう。壊れました」
「ちょちょい!俺の一文は!?」
食券を求めて、俺は発券機をガタガタ揺らした。反して女性はいたって冷静で、次のお客に「お待たせしました」と道を譲っている。
え!? 壊れてるって言ってたじゃん!発券機壊れてるのに、お客様を案内してどうすんの!
狼狽する俺の横で、お客様が一文を発券機に入れた。すると発券機は、ジジと音を出して、何の問題もなく食券が発行する。
あれ?見間違い?
「良かった、他のお客様には発券されましたねぇ」と朗らかに笑う女性。その言い方だと――俺の脳裏に、一つの予想が生まれる。
「あの、まさか……俺だけ食券が出ない、って事?」
「えーそれ聞いちゃいますか?」
「ぜひお聞かせて!お願いします!」
両手を合わせて拝んでいる俺を、チロッと一瞥した女性。だけど答えを教えてくれるわけではないらしい。「ここは、ひとまず」と言って俺の手を握り、かわよこ食堂のカウンターの裏へ入って行った。
「え、え!?」
「はい、動かないでくださいね~」
驚く俺に、せっせと割烹着が渡される。女性と同じ割烹着だ。あ、いい匂い……って。違う違う。そうじゃなくて。
「あの、どうして俺が割烹着を?」
聞くと女性は「まぁまぁ」と、俺に割烹着を着せた後、俺の首の後ろで紐を結んでいる。とても手際が良い。だけど……距離が近い。思いがけない急接近に、少しドキドキしてしまった。そう言えば、まだ女性の名前を知らなかったな。
「あの、名前を聞いてもいい?」
「わぁ、嬉しい!私もちょうどお尋ねしようと思っていたところなんです」
「え、本当!?」
俺の事を知ろうとしてくれていたのか。ちょっと嬉しい。
胸を高鳴らせた俺に向かって、女性はスッと手を伸ばす。
「私はヨミ子と言います。かわよこ食堂の店主をしています」
「俺は仁平真、よろしくね」
「では、ヒト平さんで」
「俺は……よ、ヨミ子さんと呼んでも?」
「もちろんですよ」
精一杯の勇気を振り絞って言うと、ヨミ子さんは手を胸の前で重ねてニコリと笑った。一切の無駄がない所作が、とても綺麗だ。和風な雰囲気がヨミ子さんに、良く似合っている。
って、死んでまで、俺は何を色めきだってるんだか。――がいるっていうのに。
「ん?」自分がさっき言った言葉に、ふと疑問を覚える。
――って、誰だ?