3.
「死んだ時に、ご家族が旅支度をさせてくれるんです。そして諸々の式が終わった後に火葬され、死んだ人はここへやってくるんですよ」
「あぁ、なるほど」
思い返してみると、じいちゃんの葬儀に出席した際。葬儀屋が、じいちゃんにそれらを身につけていた気がする。当時は「何やってんだ?」って不思議だったけど、なるほど。そういう意味があったのか。
「そしてここへやってきた人は、三途の川を渡り、極楽浄土を目指します。言うなれば、ここは旅のスタート地点ですね。ほら、あれが三途の川ですよ」
「え!?」
一面まっ暗闇だと思っていたけど、目を凝らすと、ジワジワとここの光景が見えて来た。長い橋の前で、死んだ人たちが列をなしている。ぺちゃくちゃと喋っている人、無口な人、たまに本を読んでいる人。その光景は、みんな揃って白装束を着ている以外、非日常には見えなかった。まるで遊園地のアトラクションに並んでいるような、そんな光景だ。
「あ、三途の川を渡る時に”一文足りない”と言われたら、かわよこ食堂で使いましたって言ってくださいね。じゃないと渡れませんから」
「逆に、それを言っただけで渡れるんだね?」
「三途の川の門番とは仲良しなので。きっと大丈夫ですよ」
きっと――その言葉に、俺が少し不安を覚えたのは言うまでもない。
すると女性が「さっきの続きですが」と発券機を見つめる。その発券機には、大きなボタンが一つだけあった。つまり、メニューは一つだけ。そして肝心のメニュー、それは「思い出ご飯」。
「思い出ご飯?」
「はい。さっき言いましたよね?極楽浄土のいくためのお手伝いをしているって。生前、一番思い入れがあるご飯を、かわよこ食堂が再現してお客様に提供します。お客様に思い出ご飯を食べ幸せな気分になってもらい、そして三途の川を渡ってもらう。そうすると、楽に極楽浄土まで行ける」
「おぉ……」
「という噂で有名な食堂でして。要は、今、かわよこ食堂はバズってるって事です。それで、この人気ぶりなんですよ」
「おぉ!?」
バズってる!?死人に口なしっていうけど、とうやって噂が広がるんだ!?
言いたいことは多々ある。が、女性は「じゃあ一文いただきますねぇ」と俺のお金を発券機の中に入れた。
カチャン、ジジ
発券機はお金をすんなりと呑み込んだ……くせに、一向に食券を出さない。待てど暮らせど、音沙汰なしだ。そんな発券機に先に痺れをきらしたのは、物腰柔らかな女性の方だった。