2.
すると、俺の疑問を悟ったかのように、女性が「ここにいる皆さん死んでます。あなた一人じゃないですよ」と実に朗らかな笑みを浮かべた。言葉と表情の温度差がスゴイ。
「死んだ人たちが、ここで何をしてるの?」
「え、知らずに”かわよこ食堂”に来てくれたんですか?」
”かわよこ食堂”?あぁ、この食堂の名前か。丸みを帯びた字で、看板に書いてあったのをさっき見たのに、すっかり忘れていた。ん?ちょっと待てよ。
「もしかして”かわよこ食堂”の”かわよこ”って……」
「はい。”三途の川の横にある食堂”。略して”かわよこ食堂”です!」
やっぱり、そういう意味だったのか!
三途の川と聞いて、一気に死を身近に感じた俺。そうか、じゃあ、やっぱり俺は死んでるんだな……。ショックと現実の両方を受け止めつつある俺を、女性は笑って軽くスルーした。「忙しいのでザッと説明しますね」と、券売機の前に、俺と一緒に並ぶ。どうやら、かわよこ食堂のルールを教えてくれるらしい。
「かわよこ食堂は、死んだ人が極楽浄土に行く前に、ご飯を食べる所です」
「死んでるのにご飯を食べるの?」
「もちろん、ただのご飯じゃありませんよ。人間誰しも、死んだら極楽浄土へ行きたいって思うじゃないですか。だから、かわよこ食堂は、そういうお客様の気持ちに寄り添っているんです。いわば、お手伝いですね!」
「お手伝い?」
ご飯を振る舞うことが、どうしてお手伝いになるんだ?
疑問符を浮かべていると、女性が「ところで六文銭はありますか?」と聞いてきた。俺が答える前に、俺の首にかけられた白い小さなカバンに、女性が目をつける。
「おぉ、きちんと頭陀袋があるじゃないですか」
「えっと……六文銭や頭陀袋って何のこと?」
「おや、知りませんか?頭陀袋は極楽浄土の旅で使う小物を入れる袋。死者のカバンですよ。六文銭は三途の川を渡る時に必要なお金です。六文銭は、たいてい、頭陀袋の中に入ってるんですよ」
「へぇ、初めて知ったなぁ。でも俺、自分で用意した覚えがないんだけど」
不思議に思っていると、女性が「当たり前ですよ」と笑った。