16.
「俺の中で、それが思い出ご飯なんだ。真希ちゃんが、俺のために作ってくれるはずだった弁当」
「なるほど。思い出ご飯を、まだ食べていない。だから発券機から食券が出てこなかった、という事ですか」
「うん……たぶん、だけど」
顔に手をやって「ハハ」と自嘲気味に笑う。だって、馬鹿だろ俺。俺がたった一言「食べたい」なんて言ったばかりに、俺が死んでも尚、真希ちゃんはこんなにも悲しんでいる。
「俺、何やってんだろうな……」
止まらない涙が、ツゥーッと一筋流れた。そして項垂れる。クソ、なんで俺は死んでんだよ。
なんで事故死なんかしてんだよ。
なんで脇見運転なんかしてんだよ。
なんではねられてんだよ。
なんで即死なんだよ。
まだ何もしてないだろ。
まだ何も進んでないだろ。
まだ俺は止まったままだろ。
あの日から、ずっと――
「くそ、くそ!くそ!」
俺はまだ、あの時のままなんだ。真希ちゃんに想いを告げられなかった、高校生の時のままなんだ。俺はあの時から何も変わってないし、何も成長してない。そして、そのまま死に、生涯を終えてしまった。
「くそ……!」
「ヒト平さん」
恨み節を唱え続ける俺に、ヨミ子さんがポツリと零す。「いっそ今いただいちゃえばいんじゃないですか?」と。明るい声と、キョトンとした顔で、俺にそう提案した。
「へ?」
「だから、今お弁当を食べればいいんじゃないですか?って。そう言ったんです」
「俺が?真希ちゃんのお弁当を?」
「そうです」
ニッと笑うヨミ子さんは、冗談を言っているようには見えない。むしろ「早く早く」と俺を急かしているようにも見える。その証拠に、手にはいつの間に持ったか分からない紙とペン。
「それは、何に使う気?」
「記録ですよ。これがヒト平さんの思い出ご飯なら、かわよこ食堂に帰った時に、私が作るって事です。同じ味を作るために、記録をせねば!」
「……はっ、」
大まじめな顔で何を言ってるんだか、と思った。だけど、そのヨミ子さんの真面目さが、今の俺の心をほぐし、優しく包み込む。
「ヨミ子さん、可愛い顔してスゴイ大胆なこと言うなぁ」
「可愛いも、スゴイも、大胆も。私にとっては全部、褒め言葉ですからね!嬉しいです!そして光栄です!」
「ハハ、ヨミ子さんらしいや」
大口を開けて笑い終わった後、俺は――真希ちゃんのお弁当を、頂く事にした。
「いただきます」
いつどこに行く時も携帯している、というヨミ子さんの割り箸をいただく。お弁当箱には卵焼き、混ぜこみご飯、そしてサラダが少々。なるほど、真希ちゃんが細い理由が分かった気がする。
「まずは卵焼きから」
「厚さはどうですか?味は甘い派?白だし派ですか!?」
「ちょっと落ち着いて食べさせてほしいな……」
ヨミ子さんは「すみません」と恥ずかしそうに眉を下げた。その姿にクスッと笑みを零しながら、卵焼きを口に運ぶ。