11.
「お疲れ様です、ヒト平さん」
「あ、すみません。バイト中なのに、お店を放っておいてしまって」
謝ると、ヨミ子さんは首を振った。そして「本日は閉店しましたから」と、既に真っ暗になった”かわよこ食堂”を指さして言った。え?なんで急に閉店?さっきまでいたお客たちは!?
狼狽える俺に、ヨミ子さんは説明してくれる。時間の流れが違うんですよ、と。
「時間の流れ?」
「ヒト平さんが感じている時間の流れと、この世界の時間の流れに、どうやらズレがあるようです。ヒト平さんがいなくなった後、お店は大変だったんですからね。もうてんやわんやで!」
ヤレヤレと頭を左右に振ったヨミ子さんに「すみません」と頭を下げる。だけど、どうしてもスルー出来ない言葉があった。
「それよりヨミ子さん、ズレって?」
”時空の歪み”みたいな事?と首を傾げると、ヨミ子さんは腕でバッテンを作る。どうやら違うらしい。
「ヒト平さんの食券だけが出てこなかったのも、どうやら時間のズレが原因みたいです。だから――」
そう言うとヨミ子さんは、ポニーテールを揺らして俺の近くへ駆け寄った。もちろん、軽快な下駄の音と共に。
「だから、今から私と下界に降りて、ヒト平さんの時間のズレの原因を探しましょう!」
「ん?今、なんて言った?もう一回」
「久しぶりの下界です!ワクワクしちゃいますねぇ~」
「ちょ、ヨミ子さん、話を!」
聞いてください!と叫んだ俺の声は、ヨミ子さんに届くことは無かった。結局。何が何だか分からないまま、ヨミ子さんは三途の川の門番を話しをして、下界と繋がる「ゲート」を開けてもらう事になる。そうして、俺のいなくなった下界へ――俺とヨミ子さんは降り立ったのだった。