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10.

「じゃあ、ご馳走様でした」

「あ、はい」


 俺があれやこれや考えている間に、男性は出口に向かって歩いていた。ここまで話をしたし、あっけないお別れも、なんか嫌だよな。


「あ、あの!」と男性の背中を追って、店の外に出た俺。そんな俺に、男性がゆっくりと振り返る。何の後悔もないような、清々しい表情。そうか、思い出ご飯を食べた人は、皆こんな顔になるんだな。そして、これから三途の川を渡るんだ。極楽浄土というゴールを目指して。


「あの……い、行ってらっしゃいませっ」

「!」


 気づけば、俺は、そんな事を言っていた。いきなり「行ってらっしゃい」だなんて、これには男性も、そして俺自身も驚いてしまう。だけど――


「最高の思い出を蘇らせてくれて、ありがとう――いってきます」

「っ!」


 屈強な男性が優しい顔で言うものだから、滅多に泣かない俺の鼻の奥が、ツンと痛くなった。急に「行ってらっしゃい」なんて言った自分が恥ずかしかったけど、そんな思いは、ものの五秒で崩れ去った。行ってらっしゃい、って言えてよかったな。


「ハ!じゃなくて!今、俺バイト中だった!」


 男性が三途の川を渡る人たちの列に入ったのを見届けてから、店内に戻るために急いでUターンする。すると、その時。かわよこ食堂の窓に、自分の姿が写った。そして俺は、その姿を見て、驚愕のあまり立ちすくんでしまう。


「え、これが俺?」


 窓に写っていたのは、俺だ。俺と言う男の子だ。だけど問題があって。何かというと、それは――


「高校生まで、若返ってる!?」


 俺が覚えているのは二十八歳の俺。髪の毛や白いヒゲの中にポツンと白い毛が混じっているのを見て「俺もそんな歳になったか」と思わず呟いてしまう、そんな二十八歳の俺だったはずだ。だけど今、目に写っている「俺」は、そう言った老化が一切感じられなかった。そりゃそうだ、高校生の若い俺に戻ってるんだから!


「そっか、だからさっきの男性は俺の事をしきりに”若い”と言っていたのか」


 やっと溜飲が下がった。こんな姿をしていたんじゃ、二人の話が噛み合わないはずだ。


「だけど、どうして若返ったんだ?」


 そこまで言った時だった。カラン、と下駄の鳴る音がする。窓に写る自分から目を離すと、すぐ近くにヨミ子さんがいる事に気づいた。さっき話していた時と変わらない笑顔で、じっと俺を見つめている。

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