表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/19

1.


「はーい、来店されたお客様は、券売機で発券してからカウンターにきてくださいね~」


 真っ暗闇の中、その声は一際大きく、そして明るく聞こえた。その声を聞いた「お客様」たちは皆、一緒の服を着ている。真っ白の服だ。その真っ白の集団は、ぞろぞろと、券売機の前に並ぶ。


 プレハブ小屋くらいの、小さな建物。そこに立てかけてある看板には「かわよこ食堂」と書かれてある。筆で書かれたような、だけど尖っていない丸みのある字体が、このお店を優しくみせていた。


 だけど「お客様」が惹かれるのは、看板やお店そのものではない。かといって、さっき声を発した女性に惹かれているわけでもない。では、なにか――それは、ご飯だ。この食堂で振る舞われるご飯に、「お客様」は惹かれているのだ。


 かわよこ食堂のお店の前に、発券機がある。その発券機に書かれてあるメニューは、シンプルそのもの。いや、シンプルというより――


「どうかされましたか?」

「!」


 気づけば、お店のスタッフである女性が、後ろに立っていた。さっきから「お客様」に、明るくアナウンスしていた女性だ。


 髪は黒色のポニーテール。動くたびにひらりと毛先が揺れて、思わず目で追ってしまう可愛さがある。顔もあどけなさが残り、二十代前後と若く見える。服は淡いピンクの和服で、白色の割烹着か。うわ、忙しそうな店内で下駄は歩きにくそうだ。


「あの、お客様?」

「あ、す、すみません」


 お客様――俺こと仁平真ひとひらまことは、頭をポリポリ書きながら、軽く頭を下げる。そんな俺を見て、女性はニコリとほほ笑んだ。


「もしかして、記憶がまだ曖昧ですか?」

「記憶?」

「そうです。お客様が死んだ時の記憶です」

「死んだ、時?」


 え、俺って死んでるの?


 と思ったのが正直なところ。だって、死んだ時の記憶なんてないし、今も普通に食堂に入っただけだと思ってたし。会社の帰り道、疲れて空っぽになった体に美味しいご飯を入れようと、そう思っていただけなんだけど。


「俺、死んでるの?全然わからないんだけど」

「はい、死んでますよ。だって立派な白装束を着てるじゃないですか」

「え」


 見ると、確かに俺は白装束を着ていた。草履まで履いていて、なんとも本格的……じゃなくて。周りの「お客様」を見ると、皆が白装束を着ていた。みんな真っ白。ん?ちょっと待てよ。皆が白装束を着てるって事は、ここにいる人たちって全員亡くなってるって事?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ