6. 二人なら
お読みいただきありがとうございます。
こちらはシステム上連載ですが、全体で12000字ほどの短めのお話ですです。ご興味あられましたら是非とも1話からお読みください。
それではどうぞ。
言えることは言い切り、リクィアは壊れた肺を最低限生命活動が維持できる程度に直す。
ドラゴンももう悠長に待ってくれない。もしドラゴンがここまで来たならば、リクィアは間違いなく死に至る。
しかし、リクィアは決して恐れることはなかった。
なぜなら、リクィアは信じていたから。
「っていっても、あいつけっこうおっちょこちょいだから、間に合うのかな」
リクィアは知っていた。
超人じみた聴覚をもつ彼女なら、きっと演説の始めからすべて聞いていたであろうことを。
そして何よりリクィアは信じていた。
リクィアが信じる、ただひとり、正真正銘の勇者を。
ドラゴンは容赦なく迫りくる。更地になった大地をマッハにも近いスピードで。
差はみるみる小さくなる。近づいて近づいて。
そうして、目の前に来た。これでおしま――
「間に合った!」
一人の少女の声が聞こえ、その瞬間にドラゴンが先ほどのスピードを保ったまま逆方向に吹き飛んだ。
そこにいたのはありふれた小さな女の子で、別の言い方をするならば、疑いようもなくただひとりの勇者ラステリカであった。
「やっぱり来てくれたんだな」
「当たり前だよ。リーリが私を必要としてくれたから」
「……ところでその右手に持っているもの何?」
「ああこれ? ケバブ屋さんにあったお肉がくるくる回ってるやつの棒」
「棒しかないってことは……食ったのか?」
「さすがの私もお肉を食べないとドラゴンは倒せないからね」
「どっからつっこんでいいのやら」
数えきれないほどのツッコミが思い浮かぶ。でも、結論としてききたいのは一つだけ。
「体は大丈夫?」
「うん、大丈夫!」
「それは良かった」
ならまあ、なんでもいいだろう。言いたいことは明日にでもたくさん言えばいい。
「来てくれてありがとう。信じてた」
「私こそ、信じてくれてありがとう」
これまでも、これからも。俺達にはたくさん辛いことはあるだろう。
でも大丈夫だ。この二人でなら、きっと困難も打ち破れる。
「それで、作戦はどうするの?」
「まあ、やっぱり最強技で行くしかないだろ。ってなわけでちょっと魔力くれ」
「はい、ン」
「ン、ありがと。じゃあまあいっちょ行きますか。準備運動も終わったことだしな」
ラステリカが背伸びしてリクィアに魔力を受け渡す。体を癒し、そして二人は走り出す。
最強技とは、ラステリカの身体能力とリクィアの物体操作と、そして地球の重力を使った、とてもシンプルなものだ。
しかし、どんな固い生物もこれでぶち壊してきたし、今回だってできるはずだ。
「私の剣もいっしょに空に投げてくれるんだよね!」
「任せろ! 物体操作が俺の専売特許だからな!」
彼女が唯一できない魔法、物体操作をリクィアは自在に操れる。
そして、これができなければそもそもこの技は成立しない。
遠くにいるドラゴンがついに体制を立て戻す。近づけば近づくほど、当たり前だがその巨体は大きく見える。
「やっぱり怖いね。一人ならちびっちゃいそう」
「年頃の女の子がそういうこと言うな。でもおれも怖いな。一人なら漏らしてた」
「良い大人がそれをいうのもどうかと思うよ」
そんな時にお互いに軽口をいいあえる人間がいるのなら。
「でも大丈夫。不思議と今は怖くない」
「そうだね、全然怖くない」
それは紛れもなく――
「「二人なら」」
最強で最高の二人に違いない。
ラステリカが空に舞った。ドラゴンの上まで美しく、優雅に、そしてたくましく。
思わずドラゴンが上を向いた瞬間、俺は勇者の剣をドラゴンの顎にぶつけ、ドラゴンの体制を崩す。
油断は大敵の体勢だって崩せるんだぜ。
『天は空に、地面は下に』
『その真実は今逆転する』
空にあるのは勇者の剣。そして彼女が蹴ってもびくともしない、地面に向けられし一つの足場。
手に持った瞬間、その剣は朱く燃えさかり。
空と地を逆転させ、天を駆け地を裂く最強技。
重力の方向に向かって、隕石の如く突き刺され!!
『天空落とし!!!』
町が揺れた。
想像を絶する衝撃波があたり一面を吹き飛ばす。
何もかもが崩れ、はじけ飛び、無に帰した。
そこに残るものは――
「おーい!」
ひとりの勇者と――
「どうだ?」
それに仕えた一人の魔法使いと――
「ニシシ、ばっちりー」
そして勝利を示す、黒く焦げたドラゴンだった。
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