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5. 私はもう戦えない

お読みいただきありがとうございます。

こちらはシステム上連載ですが、全体で12000字ほどの短めのお話ですです。ご興味あられましたら是非とも1話からお読みください。


それではどうぞ。






 無理だよ。


 ラステリカは部屋の隅でブルブルと震えていた。布団を何重にもかぶって、せめて何も聞こえないように、何も見えないように。


「お前の聴力なら、この言葉が聞こえていることは知っている。今何が起こっているのかも知っているはずだ」

「無理だよ。私はもう戦えないよ」


 あの日、すべてが終わった日。

 あの瞬間に私は終わったのだ。

 私を支えていた、気力というか責任感というか、そういうものがぷつんと切れてしまった。

 アドレナリンとか回復薬とか、そういう歪な力で動いていたけれど、あの瞬間に私はそれらを失ってしまった。


 後に残ったものはなんだっただろうか。


 何も残らなかった。強いて言うなら後悔と恐怖と懺悔だけ。


 何もかもが怖くなって、一歩も動けなくなってしまった。


 人が怖くなった。

 どう見られているのかわからない。何を言われるのかわからない。気持ち悪い私の力をみて、みんなが私をおそれてしまう。人に見られると息ができなくなった。


 肉が食べられなくなった。

 私がいままで切って切って切って切って切りまくってきた、すべての命が。私が弱いせいで目の前で死んでしまった仲間たちの命が。肉を口に含んだ瞬間にあふれ出て、血の味がして、油の味がして、罪の味がして。気づけば吐いてしまっていた。


 魔法が使えなくなった。

 わたしの出す魔法に意味はなく、むやみにみんなを傷つける。魔法をだそうとすると後悔と懺悔で頭が痛くなった。


 外が怖くなった。

 何もかも見えてしまうから。何もかも聞こえてしまう。誰かが私を狙っているかもしれない。だれかが私を恨んでいるかもしれない。人か、魔物か、わからないけれど。分かりたくもないけれど。


 部屋の中はまだマシだった。

 窓のない部屋で死角の少ない隅に座って耳を塞ぐ。自分の心臓の音すら不快だった。なにもかもが止まってほしかった。それでも聞こえてくる。怖い。助けて。


 明日が怖くなった。

 私に明日を生きる価値はないのに、それでも明日はやってきてしまう。私なんかより、みんなが明日を生きるべきだったのに。私より価値のあるみんな。


 お酒は私にすべてを忘れさせてくれた。

 甘いお酒を飲むと、少しだけ仲間といた楽しい時間を思い出すことができた。どんなに飲んでも私は酔えないけれど、それでもちょっといつもより眠くなれるから、私はそれをたくさん飲んだ。


 そうやって、明日が来たことに気づかないようにしながら、明日を今日にする作業を毎日毎日つづけた。


 毎日起きた瞬間にたくさんの声が聞こえてくる。せめて自分の中身がすべてなくなってしまえばいいのにと、何度も吐いた。


 どうして私はそんな作業を一八七二日間もつづけられたのだろう。それはあなたがいてくれたから。


「リーリ、ごめんね、リーリ、ごめん、ごめん……」


 私がリーリと呼ぶ、かつての仲間リクィアは私の家に毎日来てくれた。

 とっても嬉しかった。リーリは私を許してくれた。知ってくれた。信じてくれた。


 彼が明日も来てくれるなら、私も明日までは生きてみようと思うことができた。


 あなたを助けられることならなんだってしたい。舌を引きちぎりながらでも嫌な記憶を思い出して、演説の内容を考えることも、あなたのためならば。


 でも、戦うことはできない。壊れてしまった、勇者でもない私では、もう戦えない。


「お前がどんなに苦しいか、俺にもわかっている! それでも、お前の力が必要なんだ!! だって俺は勇者(おまえ)じゃないから!」

「そんなことないよ」


 五年前からリーリは勇者を演じてくれていた。荒れた街を立て直し、いろいろな人間と話す中で内乱が起きないようにうまく大衆を調整してくれていた。


 必要とされているのはあなたであって私ではない。


 ごめん、ごめん、ごめん。


 せめて、あなたが死んだなら私も死ぬから。


 許して。許して。




    許して。


「この町には! この世界には! お前が必要だ!」

「そんなことない!!」


 私なんて必要ない。


 もう何もできない私なんて!


 私なんて必要ない!!


 もう嫌だ。


 そうだ、耳を壊してしまえば、この声も聞こえなくなる。


 壊してしまえ。何もかも。


 壊れてしまえ。すべて、すべてすべて。





 私は指を耳に向けて、勢いよく突き刺そうとして。



「そして何より!!!! 俺には、ラステリカが必要だ!!!!!!」


 


 リーリが。



 リーリが、私を必要としてくれた。



 リーリが、私のことを必要だと言ってくれた。




 涙がボロボロと流れ落ちる。失われた私の隙間にリーリの言葉が染み渡る。




 町も世界もどうなってもいい。けど、あなたに必要とされるのなら。



 リーリが私を必要としてくれるのなら。



 

 わたしはもう一度立ち上がれる。




 ふらふらになりながら私は地面に足を付ける。何年ぶりだろう。自分の意志で立とうと思ったのは。


 

 足はまだふるえていた。吐き気は止まらない。頭は痛い。まだ死にたい。けど。



 リーリが私を必要としてくれている。



「俺はラステリカを信じている!! お願いだ、ラステリカ!!!!!!」



 リーリが私を信じてくれている。



 リーリが信じてくれた私を、私も信じなきゃ。



 大丈夫。怖いけど、大丈夫。




 だって――




「リーリがいるから!!!」





 私は部屋を突き破り、五年ぶりに外に出た。


――――――――





 そのとき町に疾風が走りさった(・・・・・)という。




お読みいただきありがとうございます。


もし面白いと感じてくださいましたら、是非ともブックマーク、そして下にある「☆☆☆☆☆」をクリックして応援していただけると嬉しいです。


次話投稿も多分本日中かと。

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