1. その勇者は今日も閉じこもる
御覧いただきありがとうございます。
なお、この作品は『相棒とつむぐ物語』コンテスト応募作品です。
連載作品ですが、今日と明日(5月6日or7日)含め、10000字とちょっとで完結しますので気軽にお読みください。
それではどうぞ。
「私には仲間がいた。だからこそ戦ってこれた」
男は腕を大きくふるう。その姿は正真正銘の勇者にふさわしいものだ。そこに観客がいたならば、この瞬間に歓喜の声があがっていただろうか。
「魔王軍は私たちの力によって……ええっと、力を落とし? これでしばらく街に平和が……なんだっけ?」
「私の力によってその勢力をおとした。だから私の力で町に平和が戻るだろう、だよ」
「あぁ、そうだった、すまん」
もちろん、今は観客などいない。買ってきたじゃがいもと、やつれた一人の少女の前で、男は演説の練習にはげんでいた。
「てかこれいうの、やっぱりちょっと恥ずかしいなあ」
「あたりまえでしょ。だってあなたは勇者なんだから」
かつてこの世界は魔王軍に蹂躙されていた。しかし突出した力を持つ勇者達によって魔王は破れ、魔王軍はその勢力を大幅に失ったのだ。
今日はその日からおよそ五年が経った記念日。お祭りが開かれて、彼はそこで演説をする練習をしていたことになる。
「いや俺は……まぁそうなんだけどな。体制的には」
「みんなもあなたが勇者だと思ってる」
「町の奴らはまぁそうなんだけどな」
勇者は人間離れした身体能力を持っていた。勇者は神獣に匹敵する魔力を持っていた。
「でも、俺なんてちょっと人より魔法が得意なだけだ。俺がいくら頑張ったところで――」
そして、その勇者は――
「本物の勇者には勝てる気がしない」
一人の女の子だった。
「そんなことないよ。だって私はもう戦えないから」
あの日から今日にいたるまで、勇者は家に籠っている。
次話投稿は2時間後くらいです。