Episode.1 はじまり
4月_
新しい教室、新しいクラスメイト。
昔の子どもも今の子どもも、新しい環境に対する緊張感というのは変わらない。4月というのは、誰もがソワソワして落ち着かない時期である。ナズナ地区の小学生たちも同様だ。
加えて、小学3年生から6年生はまた別の意味で緊張している。男子はグローリー会、女子はシンシア会への入会式があるのだ。ナズナ地区の規定では、3年生が原則各クラス1名ずつ、選ばれることになっている。
これらへの入会は、特別な意味を持つ。
私立中学入試では、加点されると公表している学校もある。
特別枠入試を設けている学校もある。
受験をしない者であっても、進学先の中学へとその情報は伝えられる。
生徒会にも参加するには必須と言われるこの条件の有無で、内申を稼げるかどうかが決まってくる。
子どもたちも、「選ばれた子」は特別だと感じるようで、選ばれた証である小さなバッジに憧れを持つ子も多いという。
月小学校3年1組でシンシア会への入会を決めたのは佐藤 花織。おとなりのお姉さんがシンシア会に入っていたのもあって、ずっと憧れていたのだ。白銅製のバッジを受け取った花織はニヤけが止まらない。
「佐藤さん、頑張ってね」
「はいっ!」
「バッジ、なくさないでね」
さっそくバッジをつけている花織。
クラスメイトの視線が集まる。
うらやましがる子、友達が選ばれて誇りに思う子、様々だ。
花織は先生の方へと視線を向けると、先生は優しく微笑んだ。
「はい、佐藤さんに頑張れーの拍手ー!」
クラスメイトの温かい拍手に囲まれて、花織はぺこりとお辞儀をすると、少し気取った足どりで席に着いた。
他のクラスからも時間差で拍手の音が聞こえてくる。
「花織ちゃん、すごいね!」
「シンシア狙ってたの?」
「花織が選ばれてほしいって思ってたぁ!」
「応援してるから!」
友達からの賞賛についつい調子に乗ってしまいそうになった花織だが、深呼吸をして言った。
「_うん!」
5月には入会式が行われる。
花織は楽しみで仕方がなかった。
おとなりのお姉さんに話を聞くと、そのわくわくはさらに高まった。
他の学校の友達ができることが何よりも楽しみだった。
そんな花織に、お姉さんはこう忠告したのだ。
「友達もできるけど、仲良しこよしするための場所じゃないからね」
花織はこの言葉をどう受け取ったのだろうかー