Episode.13 6年生のおしゃべり
6年生の教室では、今後の方針を決めるという名目でおしゃべりをしていた。
ダイヤモンド、プラチナが終わり、次はゴールドの番だ。
ゴールドのリーダーである実李が言った。
「次は私ね。
ゴールド、1位、6位、19位、20位、26位、29位って揃ってんだよ。
結構厳しく脅したつもりなんだけど、ここまで差が出るとはね。
どうしようかな。」
「実李が脅してるの想像できないなー。
上位に頼って全体を引っ張ってもらえば?」
凛が笑いながらアドバイスをする。
実李は凛の方をちらりと見て、大きくため息をついた。
「扱いやすさでいったら、順位は逆なんだけどね。
一位の石栗 蘭って子、ものすごく努力家なんだけど、人も同レベルの努力をしてると思い込んでるのよ。」
「毎年いるよね、夢華みたいなタイプ。」
今の沙夜の言葉に同意する3人を見て、夢華は慌てて言った。
「え?
私、自分の価値観を他人に押し付けたりしないよ?」
「サラッと言うことがおかしいんだよね。」
夢華は眉をしかめて目を閉じた。
言い返したいが言い返せない時の、夢華の癖だ。
多少の自覚はあるようなそぶりを見せた夢華を見て、他の4人は笑った。
夢華は目を閉じたまま言った。
「でも、みんな、わかってくれるでしょ?
私の気持ちというか、考えというか……。」
「そうね、私は感謝してるよ。
同じ環境を3年生にも用意したいって思うくらいだし……。
蘭ちゃんだっけ?
私のグループに貸してほしいくらいよ、実李。」
そう言ったのは沙夜だった。
夢華はほっとして沙夜を見つめた。
それを見た沙夜は、夢華をじっと見つめ返してニヤリと笑って言った。
「今でも覚えてるよー、『これできない3年生ださーい、向上心ないの?』ってね。」
「…っ!?」
「懐かしー、夢華の性格悪かった時代!」
「もう、何度も言ってるでしょ、桜ちゃんに出会う前の私は捨てたんだってば!」
「はいはい、わかったわかった。」
凛が夢華をなだめた。
夢華のいう桜ちゃんというのは、夢華らが4年生の時の6年生だ。
桜ちゃんこと石栗 桜_____彼女は、いま話題になっていた石栗 蘭の姉である。
しかし、今年の6年生5人がそれに気がつくのは、もう少し後になってからだった。
涼音が沙夜に話を振った。
「シルバー、えーっと、沙夜は、前言ってたように上位に手をかけるわけ?」
「うん。」
「楽そうに見えて、大変じゃない?学校での振る舞いは別に教えなきゃならないし、何よりも下位の子たちがかわいそうよ……。どうケアするの?」
「シンシアとしての振る舞いは学年のクラスでも教えるでしょ?それで十分かと思って。」
「そうかもしれないけど……。」
続けて、実李が沙夜に質問した。
「で、下位の子たちは放置?」
「んー、下位の子って言うよりは、やる気のない子は切っていく、それだけだよ。
まあ、初回の評価課題で少しやってみたんだけどね。」
「その結果がこれ?
9、11、12、14、18、21位でしょ?
みんな真ん中のあたりじゃん。」
「上3人は6年までやりたいって言いに来てる。
やる気さえあれば伸びるはず。
残り3人も、意思を見せてくれたら当然応援する。」
「あぁ、沙夜自身が下剋上に成功してるからね。
まあ、沙夜らしいんじゃない?
いいかもね。」
沙夜は黙ってうなずいた。
「まあ、こんな感じかな。次、涼音どうぞ。」
「うん。」
涼音は成績表に目を落とすと一言、
「悪かったのよ。」
とだけ言った。
涼音が率いるブロンズは、下位層が多い。
5人は頭を抱えた。
毎年、どのグループにも上位、中位、下位が揃っているのが普通なのだ。
彼女らも、彼女らの先輩達も、その「普通」に則って計画・実行してきた。
涼音以外の4人は、ため息をついた。
しばらくの沈黙の後、凛が立ち上がり教室を出た。
重い空気の中に、少しだけすきま風が入ってきたようだった。
しばらくして、
ドンッ、ドサッ
隣の部屋…つまり倉庫から物が落ちる音が聞こえてきた。
4人はすかさず音の方に顔を向け、それから顔を合わせた。
教室の入り口に、いつのまにか凛が立っていた。
「戸あけてくれなーい?」
凛は何やら分厚いA4のファイルをいくつか持ってきた。
涼音はそのうちの一冊を手に取ると、ぱらぱらとめくった。
実李はそれを覗き込んで、へぇ、と声を漏らした。
凛が持ってきたのは、過去の先輩達が残したデータだった。
3年生の成績の推移を折れ線グラフで表し、その都度反省点が書き込まれているほか、個人の個性や特性までもが記入されている。
凛が誇らしげに言った。
「紙に書いてた時代のやつだね。
パソコンに入れてるやつは見れないから、かなり昔のしかないけどさ。」
「ううん!助かるわ!ありがとう、凛!」
涼音が目を輝かせた。
早速、グラフが右肩上がり、かつ元の順位が低いものを探し、ふせんを貼っていった。
途中で手を止めて、満面の笑みで涼音は言った。
「みんな、ありがとう。
あとは私の宿題にさせてくれる?
明日のクラスが終わるまでまとめておくわ。」
「そう?じゃあ明日の小テストの勉強でもしてよっと。」
涼音の表情は明るかった。
そして、他の4人も、一仕事終えた達成感に包まれていた。




