Episode.12 今とこれから
今日は土曜日。
いよいよ夏に近づいてきた。
シンシア会の中にも、半袖で来る人が増えてきた。
午前は学年ごとの活動だ。
クラスが始まるのは10時。
花織はそれよりも30分ほど前に来た。
3年生の教室の外側の壁に、大きな紙が畳まれた状態で貼ってある。
「見たいよね、早く。」
「ん?智佳子ちゃん、おはよう。」
「おはよ、花織ちゃん。」
智佳子は教室からが顔を覗かせて、花織に挨拶した。
そして、もう一度その大きな紙を見つめた。
「多分結果だよね、これ。」
「うわぁ………」
花織も、大きな紙を見つめた。
教室に入ると、みんなは評価課題の結果のことで盛り上がっていた。
緊張と不安で押しつぶされそうになっている花織は、体に力が入らない。
とぼとぼと歩いて自分の席につくと、そのまま机に伏せていた。
3年生担当の齋藤先生が教室に来るまでの時間は大変長く感じられ、花織は自分の心臓の音を聞いているしかなかった。
「やばっ、先生きた!」
喋っていた人たちは、ガタン、ガタンと音を立てて急いで席に座った。
10秒もしないうちに、齋藤先生が来て、おはようございます、と挨拶をして教室に入った。
「おはよーございまーす」
3年生の挨拶に、齋藤先生は温かみのある笑顔を返した。
そして、一息ついた後にこう言った。
「みなさん、5分前行動を忘れていましたね。10時すぎてますから、先生来ないなーと思っても、おしゃべりの時間ではありませんよ。」
ゆったりと、優しい口調だ。
先生は、一人一人の顔を見つめて、加えて言った。
「みなさんは、シンシア会の一員ですからね。次からはきちんとできますもんね。」
3年生はみな一生懸命にうなずいた。
そして、真剣な眼差しで先生を見つめた。
先生はそれを見て大きくうなずくと、3年生が待っていた言葉を言った。
「さて、評価課題の結果が出ました。色々説明することはあるけれど……まあ、まず見ましょうか。廊下に出ていいですよ。静かにね。」
齋藤先生が廊下に出て、掲示してある大きな紙をめくったような音がした。
その音を聞いて、一斉にみんなが動き出した。
先ほどと同様に、ガタン、ガタンと音を立てて。
花織も席を立った。
廊下に出て、一生懸命に背伸びをして、自分の名前を探した。
________________________________________
「あったーっ!」
「あれ?なーい!」
「やばーい!」
「わあ!あった!」
「せんせぇ、せんせぇ!」
「すごーい!」
静かに、と言われたにもかかわらず、結果を目にした3年生はみな大騒ぎしていた。
「静かに!静かにね!見た人は席に戻って!」
先生も声を張り上げた。
花織は、自分の結果を見て、唇をかんだ。
(9位………6年生まで残れない………)
9位_____上位3分の1という結果ではあるが、花織には不満だった。
花織が目指すのは、「6年生までシンシア会での活動をやり切ること」なのだ。
6年生で残れるのはたったの5人。
はっきりと順位がついた今、現実に目を向けざるをえない。
花織は、涙を必死にこらえて席についた。
教室はざわついている。
同じグループの上位者を褒めたたえる者、安心した表情の者、泣き出す者に、それを慰める者。
多様な表情が入り混じる教室で、齋藤先生は一切動じずに話し始めた。
「はい。結果見ましたね。
色々な思いがあるでしょう。
…でもね、あくまでも今の結果だから。
これからどうするか、が大事ですよ。
それじゃ、個人の成績表を渡します。
順位が上の人から取りにきて。」
これでもかというほど、自分の順位から目を逸らせないように仕向けてくる。
花織は自分よりも前に成績表を取りに行く8人を睨むようにして見つめた。
その中には智佳子もいた。
智佳子は花織の目を見て、思わず苦笑いした。
(智佳子ちゃんが6位なんて。私だって頑張ってたのに、なんで?)
花織は自分の名前が呼ばれても、不機嫌な表情のまま成績表を取りにいった。
そして、自分の成績表と意見文の答案を机に並べて、はぁーっとため息をついた。
そのとき、後ろに座っている智佳子が、こそこそと言った。
「ねえ、あれ、あの子、一位の子、同じグループなんだけどさ。」
「ごめん、あとで聞く。」
「あ、ごめん。」
今は智佳子と話したくない、いや、誰とも話したくない。
花織はすっかり自分の世界に閉じこもってしまった。
________________________________________
一方、6年生の教室では、各々が自分のグループの3年生の成績表を眺めていた。
3年生の教室の方から一番遠い6年生の教室。
あの大騒ぎの声はここまで届いていた。
6年生担当の若月先生は、腕を組んでまっすぐ立ち、こう言った。
「まあ、あんな感じでしょうね、3年生は。今日の午後のうちに、同グループの3年生との面談を設けること、ね。」
「はい。」
「それと、前から伝えてますが、今回の評価課題は各グループの今後の方針についてのプレゼンです。試験日は来週の月曜日ですから、準備しておくように、ね?」
「はい。」
「では、私は今日出張なので、あとはお喋りするなり、寝るなり、勉強するなり、………好きにしていいです。では………おっと、ギリギリ。はい、以上です。」
6年生がお辞儀をすると、若月先生は颯爽と教室を出た。
それを見届けると、並木 夢華が早速声をあげた。
「よしっ、方針決めの相談、という名のおしゃべり、始めますか!」
他の4人は首を縦に振った。




