Episode.11 初めての評価課題②
午前中の日程が終わった。
3.4年生がお弁当を持ってワイワイしていると、美咲が全体に呼びかけた。
「あのー、昼食なんだけどー、ちょっと早めに切り上げて、練習の時間にしようかと思ってー」
3.4年生はお弁当の包みを開けるのをやめ、美咲の方に目を向けた。
「だから、10分で食べれる分食べて。20分までね。あ、4年生はゆっくりでもいいけど。」
「食べ終わらないよ、10分じゃ。」
「うん、意見文の後、面接の空き時間とかは食べていいから。それでどう?」
3.4年生は静かにうなずいた。
3年生は急いで昼食を食べると、各々が自分のやるべきことを見つけ、最後の練習を始めた。
花織は、以前 沙夜に添削してもらった意見文を座って読み直していた。
学校の宿題に加えて机に向かったのは初めてだったが、3日で12題解くほどの集中力と熱意はあった。
その熱意に応えるように、沙夜の添削もかなり丁寧だ。
(沙夜ちゃんが応援してくれてる感じがするなー…!)
紙を持つ手にぐっと力が入る。
ちょうどその時、手元が少し暗くなった。
見上げるとそこには、かおりが誇らしげに立っていた。
「かっちゃんも一応ライバルだけど、それ持ってるから仲間って感じがする。」
「うん。お互い上位目指そ。」
かおりは花織と目を合わせてうなずいた。
かおりはすぐにその場を立ち去ると、また1人で黙々と復習していた。
花織にとって、かおりは何か特別な存在のような感じがした。
結局、沙夜のサポートを受けたのは3人。
伊藤 かおり、佐藤 花織、森 愛姫だ。
残りのシルバーの3年生、
工藤 百愛、豊田 莉帆、丸山 海風は、サポートの受けた3人がどれほど準備してきたかを知らずに今回の評価課題を迎えたのだった。
「花織ちゃん!」
呼ばれて振り返ると、そこには沙夜がいた。
沙夜は花織のほうにゆっくり歩いてきて、手をとって言った。
「どう?調子いい?」
「うーん、よくわかんない。」
「いやいや、さっきもう1人のかおりちゃんと2人で、『自信あります!』みたいな顔してたじゃん。」
「ええ?」
花織はひょうきんな声を発した。
沙夜は花織の目をしばらく見つめて、くすりと笑った。
「まあ、最後の確認しようか。座って。」
沙夜に笑われたのが恥ずかしかった花織は、少し顔を赤くした。
しかし、もじもじしていられない。
今は時間がない。
花織は気持ちを切り替えて、沙夜に教わった通り、背筋をぴんと伸ばし、膝を閉じて綺麗に座った。
集中力を高めていくと、周りの雑音も気にならなくなる。
沙夜は花織の様子を満足そうな目で見つめると、かがんで目線を合わせた。
「佐藤さん、あなたの担任の先生のお名前と、先生の素敵なところを教えてください。」
「はい!担任の先生は、近藤 亜美先生です。近藤先生の素敵なところは、私たちを大切にしてくださるところです。私たち全員の家庭学習ノートに、毎日コメントを書いてくださいます。」
大きな声で、はっきりと、ゆっくり話す。
そわそわしない。下を向かない。
これを守れば大人っぽく見える、と沙夜に教わった。
加えて花織は、間違えるとつい笑ってしまう癖がある、と指摘された。
何回も何回も「やり直し」と言われ、繰り返し練習した。
ここまで練習を積み重ねてくれば、今日は自信を持って受け答えができるに決まっている。
花織は、そう自分に言い聞かせていた。
沙夜は真剣な眼差しで花織を見つめ、さらに質問した。
花織が質問に答えるたび、沙夜は小さくうなずくのだった。
「うん、まあいいでしょ。」
沙夜のこの一言を聞いて、花織はほっとした。
(沙夜ちゃんのためにも、頑張らなきゃ。)
協力者への恩返しは、結果を残すこと。
花織はそう考えていたのだった。
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ちょうど今、意見文の試験が終わった。
花織はぐーっと伸びをした。
ちらりと愛姫のほうを見ると、愛姫もこちらを向いた。
愛姫は、へへへ、と笑うと、
「どうだった?書けた?ねえ?」
と聞いてきた。
「んー、んー、まあまあかな?」
「まあまあって、良い方ってこと?すごぉ!」
それだけ言うと、愛姫はさっと教室を出ていった。
花織は愛姫を追いかけて、隣を歩いた。
「まあまあって言ったら、まんなかのまんなかだよ。」
「それは『ふつう』でしょー!」
「なーにーそーれー!同じだよ!」
「いや、でもー、『まあまあダメだった』って言わないじゃーん。『まあまあ良い』『まあまあできた』って言うじゃん!ダメだったときって、『ビミョー』って言うじゃん、みんな!」
「おおー。」
愛姫の説明を聞いて、花織は思わず納得してしまった。
『まあまあ』という言葉について考えたことは今までになかったし、愛姫が言い出さなければ一生考えなかっただろう。
花織は、言葉について色々考えながら歩いた。
急に一言も話さなくなった花織を、愛姫は不思議そうに見つめていた。
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ドッジボール、意見文が終わった。
残すは最後の評価課題、面接のみ_____
「伊藤かおりさん」
「はい」
かおりが呼ばれて、知らない4年生に連れていかれた。
面接は五十音の名簿順に呼ばれる。
花織は3番目だ。
心臓に手を当てなくても、音が聞こえてくる。
お昼の時間に食べきれなかったお弁当は、先ほど開けてからほとんど減っていない。
「やばい、緊張して、やばい。」
花織は箸を持ったまま、思わず弱音を吐いた。
同じグループの3年生である海風が近くに寄ってきて、大きな目で花織のことを見つめた。
「かっちゃん、…大丈夫?」
「うん、多分大丈夫。」
「緊張してる…?大丈夫?」
「緊張するよ、でも頑張りたい。」
「そう……私もがんばらなきゃ!」
海風はふわふわとした笑顔のまま、ゆらゆらと体をゆらしている。
「工藤百愛さん」
「はい」
面接はどんどん進む。
5分が5分には感じられない。
面接を終えて帰ってきたかおりは自分の席につくと、お弁当から小さなチーズを取り出して食べ始めた。
花織はかおりのもとに寄っていって聞いた。
「どうだった!?」
「んー、まあまあかな。」
「まあまあ?なら良かったほう?」
「……うん!まあ!」
明るい表情のかおりを見て、花織は少し驚いた。
かおりの様子に、そして、やはり『まあまあ』は良いという意味を表すらしい、ということに。
かおりは話し始めた。
「何聞かれたかは教えないけどー、沙夜ちゃんの秘密の宿題がいい感じー!あれ覚えてれば大丈夫かも!ってくらーい。」
花織は沙夜からもらったプリントを見た。
もちろん、暗記している。
すらすら言える。
これなら、きっと大丈夫だ。
「佐藤花織さん」
「はいっ」
初めての評価課題の結果が、これで決まる__




