短冊にまつわる噂
風鈴の音色がからんと響く、夏の訪れを告げる今日この頃。涼しげに吹いた風が少女の鎖骨に伸びる黒い髪と、七夕の笹飾りをかさかさ揺らす。笹飾りの短冊は青、赤、黄、白、黒という五色で、地味な色味の笹の中で鮮やかに映えている。
平和が訪れますように。
いつか世界を旅できますように。
その一枚一枚には老若男女の、ありとあらゆる願いが込められている。
最近、短冊にちなんだ噂を知った。なんでも『恋姫に告ぐ――、』に続く形で恋の願いを短冊に記すと、恋の神様――“恋姫”が叶えてくれるというもの。およそ千年も昔に生まれた恋姫は、七夕の日に恋の悲劇を経験したそうで、悲しい思いは自らが最後。そんな考えから、人々の恋を叶えるに至ったそうだ。この話は『恋姫伝説』とも呼ばれている。
そして今年で十五の年を迎える少女――四条湖都もまた、恋姫に願いを記した一人。
恋姫に告ぐ――、強くて優しい人といつまでも一緒にいられますように。
青色の短冊に記した願い。
ところで、七夕繋がりの噂としてこんな話も小耳に挟んだ。
七七年に一度の七夕の日に、このセカイを滅ぼしてしまうような、まさに天罰のような災害――“天罰と催涙雨”がこの世に降りかかる、というもの。催涙雨とは雨によって天の川の水かさが増し、彦星と逢えなくなった織姫が流す涙が由来の、七月七日に降る雨のこと。天罰のあとは必ず雨が降ることから、そう呼ばれているそうだ。
悪いことに、ちょうど今年が節目の年だそうで。
ただの迷信。ただでさえ大変な日々なので、何もなければいいけれど。湖都は思う。
揺れる笹と短冊を横目に、湖都は祈った。
「このご時世だからこそ、せめて恋という夢を見させてください」
そう、心の奥からうっとりしてしまうような。
世界に渦巻く“悪夢”も忘れさせてしまうくらいの、――素敵な“夢”を。