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鬼がいる町  作者: SIN
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生命力の維持 2

 母は、とてもとても強い人だった。

 精神的にも、もちろん強さでも。

 親父と母は学生の頃からの幼なじみだったらしく、とても仲の良い……とは言えない青春時代を送ったのだと聞いたことがある。

 学生の頃から霊力に優れていた親父は、今の俺のように学業よりも優先して祓いの依頼をこなしていたそうだ。

 そして母には霊的な才能が全くないから親父をペテン師かなにかと思っていたそうだ。

 そんな2人がよく結婚して2人の子供を産んで、2人の子供から「仲の良い夫婦」と思われるまでになったものだと感心した覚えがある。

 どうしてこんなことを知っているのかって言われると、聞けばなんでも答えてくれたから。

 2人はどうやって出会ったの?とか、いつ結婚したのー?とか、子供ならちょっと気になって質問するようなことじゃない?

 それを親父も母も当時を思い出しながら、盛大なのろけ話を繰り広げるんだよ。

 本当に仲が良かったんだ。

 だからゆぅちゃんの下に、妹ができるのも何の不思議もなかったんだ。

 「兄貴、今日もまた依頼?」

 少し昔のことを思い出しながらノソノソと準備を整えていると、ノックもなく部屋にゆぅちゃんが入ってきていた。

 いや、ボンヤリしてたからノックはされてたのかも知れない。

 「今日は2件だから早めに帰って来られると思うけど、丑三つ時にはなるだろうから、ちゃんと寝ておくんだよ」

 とか言っておきながら、今の時間が10時ちょっと過ぎなので2件の依頼を終わらせて帰宅するのは多分0時を回らない。

 それでもどうしたってゆぅちゃんには先に寝ていてもらわなければならないし、朝は依頼があると書置きを残してゆぅちゃんが起きるまでに家を出なきゃならない。

 そして、どうしたって顔を合わせなきゃならない時は明かりをつけない。

 だから夕食も朝の内に作り置く!

 もしくはカップメン!

 ただ避けてるってわけじゃなくて、ちゃんと理由があって……顔色、自分で見ても悪くなってきたなーって感じるようになってきたからね、こればっかりはしょうがないね。

 ここ数日の間に、友人からは「オバケ」ってあだ名を付けられるほどなんだから余程だよ。

 でも!この春の時期と盆の時期はかき入れ時でもあるからね!

 しっかりと依頼をこなして稼がないと!

 「今日の依頼だけど、キャンセルか延期か親父に任せることって無理?それか俺が行くとか……できない?」

 依頼を受けておいてキャンセルってのは信頼も失うし論外。

 それに親父も依頼を抱えてるし……ゆうちゃんが代わりに?

 幽霊苦手なのに?

 「無理だよ」

 それに、簡単な分類に入る人形の清めが依頼内容だったとしても、清め方知らないでしょ?

 清めるだけじゃ治まらそうな物は持ち帰らなきゃならないんだけど、その見分け方とかも分からないでしょ?

 あ、でもその場合はとりあえず持ち帰ってもらうって手が使えるか……。

 「でも、俺だって結構体鍛えられてる方だと思うし……」

 体は鍛えてると思うし、よくやってるとも思うし、強くなったとも思うけど、それは霊力とは全く関係ない。

 「ゆぅちゃんの専門はこっちじゃないでしょ?だから気にしなくて良いから。ね?」

 2日とか完全にオフにして寝てれば生命力は回復するし、今までもそうやって回復してきたから、全くなんの問題もない。

 「そんな顔の兄貴見て、気に出来ない訳ないだろ!?良いから休めよ!」

 あらら……顔を見せないように努力してたんだけど、どうやら見られてたようだ。

 「なら1時間で帰ってくるよ。それで納得して」

 「俺は休めって言ってんだけど」

 んー……ゆぅちゃんは言い出したら中々引かないからなぁ。

 仕方ないね。

 「ならかかってこい」

 そう言って挑発しながら準備の出来たカバンを背負い、部屋の窓を全開にした。

 「上等!無理矢理にでも寝かせてやるよ!」

 思った通り、ゆぅちゃんは真っ直ぐに突き進んでくるから半歩だけ横に避けて足を救い上げ、バランスを崩した体を窓の外に向かって突き飛ばす。

 呆気なく落ちていくゆぅちゃんを見下ろし、手早く戸締りをしてから玄関まで走り、靴を履いて門まで移動する……途中で玄関側とは反対側にある中庭から走って来たゆぅちゃんが前に立ちはだかった。

 少しスピードは上がったようだね。

 「仕切り直し、靴はいといで」

 「逃げない?」

 「もちろん」

 はぁ……。

 どうしましょう、弟の可愛らしさが天井知らずです。

 いやイカンイカン、こんなだから友達からブラコンだなんてからかわれてしまうんだ。

 俺の可愛いって感情はそういうのじゃなくて……なんていうのだろ、こぅ……上手く説明は出来ないけど、1番近い感情をあえて挙げるとするならば小動物をわっしゃわっしゃと撫ぜている時の感じ!

 おーよしよしかわいいねー。の、あの感じ!

 いやだってそうでしょ?

 さっきまで「ゴラー!」みたいなテンションで飛びかかってきてたくせにだよ?急に「逃げない?」なんて小首を傾げられてごらんなさいよ。

 頭を撫でくり撫でくりしたくならない?

 「お待たせー」

 喧嘩の続きをしようって空気じゃないよね、これ。

 じゃあ本当に仕切り直し。

 「俺さ、今絶対に逃げ切れるって思ってたんだけど、追いつかれたでしょ?別にスピードの特訓とかしてないのにさ」

 それなのに追いついてきた。

 つまりゆぅちゃんはスピード関係の能力が伸びやすい傾向にあると思うんだよ。

 「ジョギングはしてるけど」

 ジョギングだけで能力を上げたの!?

 なら、もっと本格的に鍛えたらどうなるんだろう?

 ちょっと疲れてるんだけど、試してみたくなったよ。

 「なら今日の依頼はゆぅちゃんも一緒に行ってみようか。走って移動するから、付いて来て」

 ゆっくりとアキレス腱を伸ばし、クルクルと足首をほぐしたらトーントーンと軽くジャンプして、足全体がほぐれた所で出発だ!

 1件目の依頼は、先日事故のあった交差点での霊視とお線香をあげることだから、家からは結構な距離がある。でも2件目の現場の方がややこしいから問題なし。

 久しぶりに全力疾走。

 移動手段として走っているだけじゃなくて、ゆぅちゃんの強化訓練を兼ねているから手抜きなしの全力疾走。

 それでも万全な体調とは言えないから……あれ。

 今日追いつかれたのは単なる俺の衰え?

 いや……どのみち訓練は必要なんだから良いよね。

 それに今日の依頼は2件共かなり簡単なものだから、普段どんな依頼をこなしてるのかを見てもらうことで少しでも安心させられるかもしれない。

 上手くいけば、依頼なんていってるけど簡単なことしてるだけでしょ?はいはい、いってらっしゃーい。って感じで気にしなくなってくれるかも。

 実際に危険な依頼は出来るだけ陽のある間にするし、そういうのはまだ俺1人には任せてもらえないから親父と2人がかりだしね。

 おっと、そろそろ現場が見えてくるころかな。

 「ゆぅちゃんストップ」

 角の所で立ち止まり、走ってきて乱れた作務衣を整え、背負っていたカジュアルなデザインのカバンの中からお線香セットだけを取り出してゆぅちゃんに持ってもらう。

 「あの電柱の所にいる人は見える?」

 と、コソッと現場に立っている依頼主を指差してみると、ゆぅちゃんは見てわかる程に震え始めてしまった。

 これは、話しをさっさと進めよう。

 「あの人が、依頼主さんね!」

 「あ、依頼主?わービックリシタ~……」

 幽霊が見えたと思ったんだね?

 「今から依頼内容の確認をして、それを済ませて来るから、ここでちょっと待ってて」

 「ワカッタ」

 何でまだ表情が硬いの?

 ポンと1回ゆぅちゃんの頭に手を置いて、ゴホンと咳ばらいをして気分を落ち着かせてから依頼主の所へゆっくりとした歩調で近付き、

 「こんばんは、小宮と申します」

 自己紹介。

 本当ならトントンと依頼内容を聞いたり、依頼主の名前の確認をしたりとかいろいろやってしまいたいんだけど、そういうのを適当にすると一気に胡散臭さが増すからしょうがない。

 「こんばんは……娘がここで引き殺されたんだ!娘がまだここにいるのかどうか見て欲しい」

 ふむ……。

 そういう場合、いるかどうかを確かめるんじゃなくて成仏させてくれって方向性のが多いんだけど、いちいち詮索しませんのでご安心を。

 っても……特になにもいないんだけど……一応やってますよ感は出しとかないと。

 ポケットから数珠を出してはめて、パンッと手を合わせてからブツブツと経を唱えてみれば場所が悪かったんだろう、ワラワラと寄ってきた。

 さてと、この中に娘さんはいるのだろうか?

 「娘さんの特徴は?当時に来ていた服でも髪型でも、何でも構いません」

 「これが娘です」

 そう言って見せられた写真には、笑顔の可愛らしいお嬢さんが写っていた……んだけど、集まって来た者の中に笑顔の者は1人もいないし、なんなら死んだ直後の形相を保っている状態の人も多いし、手足が明後日の方向を向いてる人もいて。

 だから、当時の服装を教えてもらえるのが1番見つけやすいんだけど。

 写真を見せられた後からじゃあ追加要求し難い。

 とはいえ、女性であることが分かったんだから結構絞れたし、女児でもなく女性だから候補はかなり少ない。

 「……青色のスカートをはかれていましたか?」

 1番手前にいる人の服装を訪ねてみれば、娘さんは黒ジーンズをはいていると新情報が出て来た。

 黒がどうかは分からないけど、ジーンズをはいている女性が2人いる。

 後はこの2人のうちのどちらか、どちらでもないのか。

 「娘さんのお名前は?」

 「アイリ」

 依頼主の名前は林野だから林野アイリさんか、さて、2人のうちのどちらかが林野さんなのかな?

 「林野アイリさん」

 呼びかければ、1人の女性からカッと鋭い視線を向けられた。

 どうやらあの人のようだ。

 「林野アイリさんは、ここにいます」

 と、なにも見えないだろう父親にいる場所を示してみれば、ガタガタと震えた後膝をついてしまった。

 「頼む!祓ってやってくれ!」

 やっぱり成仏させてくれとは頼まないんだ?

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