表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼がいる町  作者: SIN
7/35

妖怪学校の教師たち

 「タコイチ先生ー、そろそろ転入生達が入り口に到着する頃です、迎えに行きましょう」

 今日転校してくる予定の3名分の資料に目を通していると、そう声をかけられた。

 いよいよ、転入生が来る……なんでも大昔に活躍した妖怪退治の家系の末裔だとかで、私はかなり、かなりかなり慎重になって今日まで調整を重ねてきた。

 妖怪退治を生業としている家柄、例え力が衰えたと言ってもその誇りは残っている筈の家柄の子達、もし強い力を持っていたなら、決してこの学校に売られることなんかなかった筈の子達。

 私は最後まで親御さんたちに考え直すように提案してきた。

 学校に通うのではなくて、妖怪に関する教材で通信教育をーなんて最先端なことまで提案したのに。それでも親御さんはいくらかの金額と引き換えに子供を学校に引き渡してきた。

 当人不在で行われてきた数々の話し合いの結果が今日だ。

 私は今日、初めて写真ではない彼らに会う。

 どんな顔をしていけばいいのだろう……。

 「あの……ミノロス先生、タウロス先生、私には自信がありません」

 この男子妖怪学校では、主に普通の学校には通えない半妖の生徒を受け入れているけれど、半妖なので食事は人間用と、妖怪用の2種類が必要になってしまう。

 妖怪用の食事は、生きている人間の生気だ。

 より人間に近い生徒は月に1回程度の摂取で良いけれど、そうではない子達は毎日摂取しなければならない……全寮制のこの学校では、人間の生徒も同時募集している。

 人間の生徒には、一般的な知識と妖怪に関する知識を教え、寮の費用や食事の費用は卒業までかかることはない代わり、半妖の子達の食事となってもらう“餌授業”を受けてもらわなければならない。

 在学中に命を落とすようなことはもちろんないし、少しでも体調不良を訴えられたら回復に専念してもらうし、餌授業は交代制。

 だけど、いくら安全性が高いとはいっても、今日まで普通に生きていた人間が「今日からは妖怪の餌です」なんて言われたらどう思うだろう?

 親御さんから売られたなんて知ったら、どう思うだろう。

 「タコイチ先生、言葉に詰まった時や居た堪れなくなった時には資料を読むふりをして視線を外してください。我々がサポートしますので」

 はぁぁ、頼りになる先輩がいて私は幸せです。

 こうして気を引き締めて転入生の元に降りて行けば、何故だか6人もの人がそこにいた。

 し、資料に目を!

 「タコイチ先生……ゴホン、我々は男子妖怪高等学校の教師である。本日は3名の転入者を迎えに来た。……」

 「……」

 「……タコイチ先生」

 えっ!?

 あ、私の出番だ!

 「おや、随分と大人数のお客様ですね」

 心得1,まずは不思議な世界の住人であることを印象付けるために自信たっぷりな様子でゆっくりと話しかけるべし!

 「……お客さんって?招かれた覚えはないんだけど?」

 至って普通に世間話をするような感覚で返事を返された、だとっ!えっと、し、資料に目を!

 えっと、心得2,毅然とした態度で対処すること。よ、よし!

 「こちらの手違いで、数名間違ってお招きしてしまったようですね……」

 実際手違いがあったんだろうけど、どうして関係のない人間が3人も迷い込んでしまったんだろう?入り口にかけていた結界が古くなってるのかな?職員室に戻ったら封印科の先生に報告しないとだ。

 「先ほども言ったが、生徒として我が校に通ってもらうことになる。関係のない者を連れて行くことはしないので安心してくれていい」

 流石先輩、丁寧な説明で安心感も与えているのにちゃんと威圧的だわ。

 「間違っているのなら、帰してくれないかな?」

 安心していいよって言ってるのに、この人間、ミノロス先生の言葉を無視してない?

 そんなことってあり得る?

 物凄く威圧的なミノロス先生を前に少しも恐怖に怯えないとか、むしろ言葉を完全に無視するとか、ただの人間にはあり得ないよね?

 そんなのが出来るのは、妖怪が見えていない段階の人間で……まさか、見えてないの?

 「こちらは正当な手続きの元、対象者をお招きしているのですよ。失礼ですがお名前を」

 とりあえず、この人間が何者なのかを先に知らないと。

 「小宮」

 小宮……何処かで聞いたことがあるような……。

 「名前は何という?」

 タウロス先生が小宮と名乗った男に尋ねるが、小宮はちらりともタウロス先生の方を見ない。

 「我々が見えていないというのか?」

 と、今度はミノロス先生が声をかけるが、これもやっぱり反応しない。

 とりあえず、動けないように術にかけてしまってから対策を考えようとして、私は小宮にフルネームを答えさせた。

 私の術はフルネームを相手に聞いて答えさせることで発動する行動の制限。

 完全に動けなくすることは出来ないし持続性もあまりないけど、動けなくなるというのは最も分かりやすい制限方法だし、恐怖感を煽るには効果的な方法……なんだよ?

 普通はね、金縛りに合うみたいな感じでガクガクーってなってから膝をついてしばらく腰を抜かす感じになるはず……なのに!

 小宮モリヤは私が何度術を発動させてもケロリとしている。

 ペラリ、ペラリと資料に目を落としてミノロス先生とタウロス先生のフォローがあったとしても、小宮には両先生の声も、姿も見えていないんだからどうしようもない。

 ペラリ、ペラリ。

 私がどうにかしなければ!

 「小宮モリヤ様は、我等がお招きした人物ではありませんので、少しお待ちください。えーっと、ではそちらの方。お名前は?」

 とりあえず必殺奥義、問題の先送り、発動!

 菊池家の次男である菊池タツミと、偽名を使ってやり過ごそうとした三男の菊池ライのフルネームを聞いて動きを封じ、少し自信が回復した所で今回2番目に厄介な子の番がきた。

 資料を見ると男子の筈なんだけど、目の前にいるのは明らかに女の子。

 だけど、漂ってくるのは間違いなく資料に記されている渡部家末裔の微弱な気配。

 とにかく、名乗ってもらおう。

 「次に貴方、お名前は?」

 渡部は真っ青な顔色で、首を振るばかりで名乗ろうとはしない。

 ここまで怖がられてしまうのには、なにか理由でもあるのだろうか?

 半妖の餌として学校に通ってもらいます。という身も蓋もない説明をしたんなら理解はできる。

 そりゃいきなり妖怪の餌と言われたら頭から齧られるとか、血を吸いつくされるとか、そんなイメージを持たれてしまうだろうからね。

 だからこそ私達はかなり気を使って餌であることを直接的には伝えないようにしているし、ちゃんと卒業後の時間もあるってことを強調して説明するし、入学した生徒が卒業まで生存している確率はほぼ100パーセントであることも説明する。

 「この上にあるのは男子校でしょ!?私は女よ!帰して!」

 名前ではなく、性別を偽ってまで拒否してくる人は初めてだ。

 ここまで拒絶している子供を、親御さんはどうしてこの学校に売ろうと思えたんだろう。

 菊池家なんて次男と三男だなんてさ……長男だけで良いなら、そもそもどうして子供を作ったんだろう。

 売ることが目的?だとしても、ここまで育てる方がお金はかかるだろうし……とりあえず作れるだけ作って、その中で1番力の強い者を残そうって感じ?

 分からないな……人間はなにを考えているのか、理解できないな……。

 これ以上渡部の声を聴いいてると逃がしてあげたくなってしまう。

 逃がしてあげた所で、この子が帰る場所なんてもうないかも知れないのに。

 考えても仕方ないのに、人間のことを考えてしまう。

 だから少しの間、私の視界から外れていてください。

 私の遠い、遠い先祖はクラーケンだったので、私にだって自分の分身位は召喚できるのですよ!

 ポンッ。

 50センチ位までなら!

 まぁ分身体といっても完璧に私と瓜二つのものが呼び出せるわけではなくて、50センチのクラーケンみたいな子が出て来る訳なんだけどね。

 もはや私の分身なのかどうかも怪しいから、ペット感覚?名前も付けたしね。

 誰が“ちょっと大きめのタコ”ですかっ!

 「アソブ、アソベバイイ?」

 コクリと頷けば分身体……クラーちゃんは嬉しそうに足を波打たせるとバッと渡部に向かって伸ばして拘束し、そのまま宙へと連れ去ってくれた。

 「離せっ!下ろせよ!」

 「ダメ、オロサナイ。ワタシ、キニナルコトガアル」

 気になること?

 少し気になって見上げてみれば、渡部が来ていた女性ものの上着がヒラヒラと落ちてきて……え?ちょっとクラーちゃん!?酷いことしちゃ駄目だからね!?

 「な、なに……やめろっ!」

 えぇぇぇ~~~!?

 「ニンゲンハ、クスグラレルトワラウ、ソレ、イタイメニアッテテモ、ワラウ?」

 痛い目ってなに?なに?

 「お願い、やめて……下さい……ごめんなさい……」

 完全に戦意喪失っていうか、降伏状態?ダメダメ、恐怖を植え付けたい訳じゃないんだから!

 「謝罪を受け入れましょう。では、お名前を」

 サラッと名乗ってくれたらそれだけで良いから、ね?

 しかし渡部は名乗ってはくれず、私の判断よりも先にクラーちゃんの足の1本が渡部のお腹に当たった。

 クラーちゃんの足にある吸盤には、1つ1つに歯が付いているから、本気を出せばか弱い人間なんかは一瞬にして血まみれになってしまえるだけの能力がある。

 だけど、ちょこんと当てているだけだし、渡部もそんなに痛がってる様子はないから、大丈夫……かな?

 それよりも、これ以上名前を訪ねて拒否され続ければどんどんクラーちゃんの容赦がなくなってくのだろうから、最後にしよう……本日2度目の必殺技、問題の先送り!

 先送りにしておけば渡部の場合は降伏して名前を教えてくれるかもしれない。

 小宮の方はどうだろう?

 出入り口の封印の調査があるから、封印科の先生が来るまで待てと言って素直に聞いてくれるだろうか?

 そんなことを言えば学校まで付いて来る可能性があるんじゃないだろうか。

 学校の敷地内に入っているにも関わらず、私以外の妖怪を見なくて済んでいる可笑しな人間が学校まで付いて来て、そして中で行われている餌授業を目撃したらどうなる?

 餌を担当する人間の生徒の命は確かに保証されてるけど、さすがに生気を食べられている授業中はグッタリとしてしまっている。

 それを目撃された後ではいくら大丈夫だとか安全だとか説明しても信じてはくれないだろう。

 じゃあどうする?

 あ、そうだ。

 小宮は私のことは見えているんだから、きっとクラーちゃんのことも見えてるはずだよね。

 だったらクラーちゃんに押さえておいてもらって、その間に封印科の先生を呼んでくれば良いんじゃない。

 後は、途中にある封印門を閉じながら寮に転入生達を案内すればクラーちゃんが押さえられなかった場合も安全じゃないの!

 はぁー解決の糸口が見つかって良かった良かった。

 やっぱり問題の先送りは、ジックリと考える時間を稼ぐのに有効な手段だよね。

 と、思っていたのに。

 寮に向かっていた私達の所に、どうして小宮が現われるのでしょう?

 私は確かに封印門を閉じたし、その時の封印の札に問題はなかったのに、何故こうも容易く来れたんだろう?

 まだ妖力に溢れてる強者とかなら納得できる。

 だって、封印に使われている妖力よりも強い妖力をぶつければ札が壊れるから。

 なのに、今ここにいるのは私しか見ることが出来ていない半端者。

 「おやおや、これはこれは貴方は小宮モリヤ様……」

 心得2,毅然とした態度で対処すること!

 「今の所全員無事ですよ。そろそろ帰りたいのでね、出口、だしてもらえませんかね」

 今の所全員無事ってなに!?

 え?

 出口ださないなら他の子を無事では済ませないよってこと!?

 なになに怖い!

 なに、怖い!

 もしかして出口だけじゃなくて迷惑料も出せとか、そんな感じです?

 し、資料に目を!

 「タコイチ先生落ち着いてください、出口さえ出してやれば帰るでしょう」

 そ、そうかな?

 そうだよね?

 じゃあもう少し待って欲しいって素直に言って、封印科の調査があるから……って、生徒でもないただの人間に詳しく説明する訳にもいかないんだった。

 えっと、じゃあ……。

 「こちら側に来てしまった。それを不運だったと諦めてもらいたいのですけど」

 ね?

 だから大人しくして後1時間……2時間位かな?

 暇だと思うけど、待ってて。

 あ、仮眠がとりたいなら毛布とか用意できるよ!

 「お断りです」

 ファイ!?

 急に手を叩かれて、持っていた資料がバサリと落ちてしまった。

 今日という日を迎えるために何度も何度も目を通して、どうにか考え直してもらおうと親御さんの所に出向きながら書き記した転入生3名の個人情報。

 私が担当する、大切な生徒達の資料が!

 もう良い!

 封印の調査が終わるまで強制的に眠ってもらうんだから!

 そう思って勢いよく武器を構えて首トンしようとしたら、返り討ちにあいました。

 「ニンゲン、コワイ……」

 それを見たミノロス先生とタウロス先生も戦おうとしたんだけど、先輩2名は先制攻撃の突進攻撃が全く通用せず。

 「あの人間が夜叉なだけだから……コワイだけだから……」

 行き成りの1発目の攻撃で目を抉り取ってくるなんて、容赦がなさ過ぎて引くわ!

 ミノロス先生達には「牛タン?」とか言ってたし、本当に夜叉だよ。

 「タコイチ先生、目は大丈夫ですか?」

 大丈夫に見えているのなら眼下に行ってください。

 でも、痛いってよりも物凄く酷く盛大にビックリした!って方が先に来たから大丈夫なのかな?抉った眼球は踏み潰したりしないでちゃんと返してくれたから、保健室に行けば回復もしてもらえるだろうし……。

 「……」

 「……」

 「……」

 あんな人間がいていいの?

 妖怪が見えない人間だから攻撃しても当たらないし、その癖妖力で出した門とか簡単に突破してくるし、戦いが始まったら容赦ないし、学校のシステムとか知らない癖に卒業までガンバレーみたいな態度で走り去っていくし、その走り去っていくスピードが普通の人間じゃないし。

 ……もしかして人間て本当は物凄く強かったりする?

 じゃあ、妖怪退治の先祖を持つこの子達は、実は小宮よりも……ってこと?

 「あ、あの……えっと、寮って何処?」

 ヒィ、喋った!

 「はい!こちらでございますとも!3年間つつがなくよろしくお願いいたします!」

 資料に心得を書き足しておこう。

 心得3,ニンゲンコワイ、っと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ