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鬼がいる町  作者: SIN
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肉体派の祓い屋 5

 バス停まで出て振り返ってみると、そこにあるのは木々だけで、さっき降りてきたはずの階段どころか、森への入り口さえない見慣れた光景が広がっている。

 だけど、ここに妖怪の学校に続く道があるんだよね……入り口はどうやって開くんだろう?

 入り口は他の場所にもあったりするのだろうか?

 そうだな、俺が入った時、バス停には菊池兄弟も渡部もいなかったじゃないか。

 はぁ、とりあえず今は家に帰って仮眠を取ろう……かなり眠いわ。

 バスで帰ろうと思ったら、次に来るのが15分後。

 15分もあれば家に着けると思った俺は、眠気を引きずりながら、まるでゾンビのようにフラフラと帰路についていた。

 「兄貴、こっちのバス停だったのかよ!裏山っても広いんだからな?親父は向こう側探しに行ってるぞ」

 帰り道の向こう側から機嫌の悪そうな声が聞こえてきて、更に体の力が抜ける。

 「ゆぅちゃ~ん。俺もう駄目……ネムイ」

 ガバリと抱き着けば、無意識に体を支えてくれる優しいゆぅちゃん。

 家まではまだまだ遠いんだけど、もう自室についたって位の安心感があるよ。

 「ゆぅちゃんって呼ぶなって!こんなとこでっ……起きて、兄貴……重い……」

 これ位で根を上げてどうすんのさ。

 ゆぅちゃんはさ、きっとこれからいっぱい妖怪を相手に戦うことになると思うんだ。

 俺が今日戦った妖怪よりも、はるかに強い妖怪と……だから、強くなってね。

 出来る限り協力するから。

 「あ、兄貴。マジで無理……自分で歩いて……」

 半分眠りながら家について、ノタノタと歯磨きなどをしながら寝る準備を整えていると親父に呼び出され、経緯の説明を求められた。

 確かに、面倒なことになってると連絡をして呼び出したんだから説明は必要だ。

 「裏山のバス停……んと、向こう側の奥のバス停ね。で、そこに階段が現われたんだよ。一瞬だけ物凄ぉく強い霊力を感じたから、マズイ事でも起きるかなぁーと……けど、階段の上にあったのは恐らく妖怪の学校。少なくとも4体の妖怪がいたけど、学校内には入ってないから、どれだけいるか分からない」

 目玉をくり抜いたとか、見えたり見えなかったりしたとかは特に言わなくて良いかな?理由を聞かれても良く分からないんだし、そろそろ本当に寝ないと頭が回らない。

 「……今日はもう休みなさい。その代わり明日の午前中、小学校に行ってもらいたい。詳しい内容は明日話す」

 あ、良かった……夜はぐっすり寝て良いんだね……。

 「モリヤ、部屋に戻ってから寝なさい。……モリヤ?」

 もう限界だ、もう1歩も動きたくない。

 「ちょっ……ユウトー、モリヤ運ぶから布団敷いてやってくれー」

 パチリと目が覚めれば朝の6時、久しぶりにゆっくりと眠れた……と言うよりも寝過ぎてしまったが、頭はすっきりとしていた。

 自室に戻った記憶はないのに、しっかりと自分の布団で眠っているのは俺が寝ながらでもしっかりと自分のことは自分で出来る完璧な人間……ではなく、親父とゆぅちゃんの厚意なのだろう。

 そう言えば午前中に仕事があるって言ってたし、詳しい話しを聞きに行こう。

 っと、その前にお弁当を作らないと。

 「兄貴おはよ……んー……味噌汁ある?」

 「おはよー。味噌汁あるよ、温めておくから先に顔洗っておいで」

 家は結構な大所帯だから、朝食にパンが食べたくなっても、ご飯が食べたくなっても用意ができるくらいの食材はある。

 小宮家としては親父とゆぅちゃんと俺の3人しかいないんだけど、うちは祓い屋でもあるし道場もあるしで弟子がいたりするんだよ。

 ゆぅちゃんの能力が目覚めれば、妖怪系の弟子とかも増えたりするのかな?

 とか言いつつ……昨日妖怪とちょっと戦ってみて思ったのは、ゆぅちゃんの能力が目覚めなければ良いのに。って。

 だってさ、生傷絶えないんじゃない?って思ったから。

 俺は心霊系だから、いくら戦って攻撃を受けたとしても消耗するのは精神力であったり生命力だったりするから、ちょっと休むだけで普段と変わらない生活を送ることができる。

 でも、妖怪は物理攻撃……牛みたいな妖怪に正面から体当たりされた時、果たしてゆぅちゃんに耐えられるだろうか?

 吹き飛ばされた時、ちゃんと受け身を取ることができるだろうか……。

 今度1回投げ飛ばしてみようかな?

 いや、不意に攻撃をされることを想定しないと意味がないよね。

 「兄貴ー卵はスクランブルエッ……えぇ!?」

 顔を洗ってテーブルに着こうとしたゆぅちゃんの手をとり、そのままクルリと背中に乗せて、下に叩き落とすのではなく廊下の方に向かって投げ飛ばしてみた。

 着地に失敗しても怪我をしないようにゆっくり投げてはみたけど、それでもポーンと飛んで行くゆぅちゃんは、ちゃんと廊下に着地した。

 「す、スクランブルエッグ、そんな駄目?」

 あぁ、違う違う。

 「不意に投げ飛ばされた時に、ちゃんと着地できるのかな?って疑問に思っただけだから安心して。スクランブルエッグだね、任せといて」

 お詫びに卵2個使うし、お弁当は生姜焼きだよ。

 「はぁ!?そんなんで朝っぱらから人を投げるなよ!このゴリラ!」

 将来は、俺よりも強くなってくれないと困るからね、今の内に教えられることは全て教えておきたいんだよ。

 いつまで一緒にいられるか分からないし……。

 あ、でもゴリラはないんじゃないかな?

 握力500キロもないからね。

 ゆぅちゃんが朝食を食べている間、俺は親父の所に向かって仕事内容を聞いていた。

 今回の依頼主は小学校の保険医で、長年使ってきた人骨模型を廃棄するからお祓いをして欲しい。というかなり簡単な内容だった。

 長く使った物には魂が宿る……付喪神なんだけど、こういった依頼の大半では本当に付喪神になった物はないんだ。

 だから形式的な、長く使った物に対する最後の清めをするだけで済む。

 昨日はぐっすり休ませてもらって、休んだ1発目の仕事がこんなにも簡単で良いのだろうか?

 あ、でも午前中にってことは早く行って終わらせないと遅刻する。

 白いシーツと白い布、塩と学校の制服をカバンに詰め、部屋着用の作務衣から外着用の作務衣に着替えて玄関に向かえば、スマホを眺めながらまだ朝食を食べていたゆぅちゃんが不意に顔を上げた。

 「今から仕事?」

 あれ……いつもなら特に声もかけてこないのにどうしたんだろうか?

 この時間に出ることが珍しいって訳でもないんだけど……。

 「ん。小学校で廃棄前の人骨模型のお祓いだよ」

 あ、そうか。

 人骨模型のお祓いだけなら確かに心霊的なことだけど、本当に付喪神なら人骨模型自体は妖怪化してる状態……妖怪はゆぅちゃんの専門だから、そういうことか。

 「なんか、上手く説明できないけど、気を付けて」

 今回のは、本物のようだ。

 とは言っても、やることはいつもとそんな変わらなくて、物を清める前に魂を物から出すって工程が加わるだけ。

 妖怪とは言っても道具に宿った魄だからね、それでも立派な心霊的なものだし、いざとなれば道具を破壊することが物理的な攻撃になる。

 「ありがとう。行ってくるよ」

 外に出て、小学校の方に歩き出してから依頼主に電話をかけてみれば思いの外素早く若い男の声が聞こえた。

 電話待ちをしていた、とか?

 それほどまでに凄いのがあるんだな……ちょっと緊張してきたよ。

 「おはようございます。今から伺いますが、よろしいでしょうか?」

 よろしくないと答えられたら、ゆぅちゃんが登校してから帰宅して、重たい塩だけでも置いて学校に行こう。

 ゆぅちゃんの登校を待たずに帰れば良いんだろうけど……あんな風に送り出されたのにキャンセルになったーとか言って帰り難い。

 「はいっ!正門でお待ちしています」

 あ、それは助かった。

 知らない学校内をウロウロして不審者扱いされたくなかったからね。

 さて、今頃依頼主は正門前に向かっているのだろうか?

 だったら急がないとな……ここからじゃあの小学校までどんなに頑張っても10分はかかる。

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