兄弟喧嘩 6
早朝、お弁当を作ろうとリビングに行くと親父が座っていた。
親父は普段本堂のある建物を使っているから、こっちの住居には余程のことがない限りはやって来ない。
来たところで道場の中なんだけど……寝起きすぐにリビングに親父がいる緊張感は流石に心臓に悪いや。
「おはよう……えっと……」
何の用ですか?ってのは可笑しいし、従者のことについてですよねってこっちから話を振るのもなぁ。
「ユウトが起きてきたら話がある」
やっぱり従者の話しみたいだ。
ゆぅちゃんが起きて来るまで待つつもりらしいから、お弁当を作り終わったら起こしに行った方が良いかな。
自然に起きて来るのを待ってたら2時間はこの状態だろうし。
夕飯の残り物でパパッとお弁当を作り、ゆぅちゃんを起こしてくると階段を上げった先にはポクタロウとカンタロウがお行儀よく並んでゆぅちゃんの部屋の前にいた。
「グルルルルル」
2匹は俺を見るなり唸り声をあげてくる。
生前の頃からこの2匹は俺を嫌っていたし、仕方ないね。
攻撃して来ない限りはなんだっていいよ。
攻撃して来ない限りはね?
「ゆぅちゃん起きてる?起きて、入るよ?」
一応確認を取って部屋の中に入り、寝ているゆぅちゃんの肩を叩いて起こし、半分目が閉じているのもお構いなく担ぎ上げてリビングに戻って席に座らせた。
寝起きでいきなり親父の登場にはゆぅちゃんも緊張したのか、一瞬にして目が覚めたようだった。
さてと、話しを聞きますか。
「話しってなに?」
とりあえず呪いとか従者とか下手なことは言わずに親父の言葉を待とう。
もしかしたら全然違う内容かも知れないしね。
「ユウトに従者の話しをして1週間が経った。モリヤ、お前の気持ちを教えて欲しい」
あ、1週間も前に言ってたのか。
それで俺の気持ち?
問答無用で従者教育しておきながら、今になって俺の意見とか重要?
それとも、ゆぅちゃんが納得するように俺の口からもしっかりと従者になりたいって意思を伝えろってことかな?
多分それだな。
「兄貴……」
あーあ、2人共よく似た顔で俺を見ないでよ。
「俺は従者になる為だけに小宮家に来たからね。でもそれじゃあゆぅちゃんは納得してくれそうになかったから、勝手で申し訳ないんだけどひとつ約束をしたんだよ」
「約束?」
あれ?
勝手に約束なんかしやがってーって怒られるかと思ったんだけど、普通だな。
「ゆぅちゃんが高校を卒業するまでに、俺よりも強くなっていたら従者にならないって内容だよ」
案外フワッとした内容だから、もう少し細かく決めないと。
「勝敗の付け方は?」
まさにそこだよね。
「実戦でやろうと思ってる。俺に参ったと言わせられたらゆぅちゃんの勝ち。言わせられなかったら俺の勝ち。心理戦や学力は無効で、単純に純粋な戦力だけの勝負」
「そんなの、俺が不利じゃんか!」
まぁ、そうだろうね。
今の段階ではなにをどうやったところでゆぅちゃんに勝ち目はないよ。
「モリヤが気絶してもユウトの勝利としよう」
なるほど、それなら少しはゆぅちゃんにも勝ち目はあるかな。
俺が感知できない妖怪を使って俺を攻撃させれば良いんだから。
でも意外だ……親父がゆぅちゃんに有利となるルールを追加するなんて。
いや、ここで重要なのはゆぅちゃんを納得させられるかどうかであって、ルールの緩和ではない。どんなルールが追加されようとも、俺が勝つって結果以外は許されないんだ。
妖怪対策、ちゃんと考えとかないとな……。
キーンコーンカーンコーン
朝の予冷が鳴る頃、俺は真原色のシャツを持って教室にいた。
「おはよー」
「おはよー……仲直りどう?」
朝の挨拶と同時に状況確認はやめてくれるとありがたいかも知れない。
「まぁ、仲直りは出来たかな?」
本気の勝負をするって宣言をしたんだから仲直りと言って良いのか分からないけど。
「あー、ブラコン再開?それで、原因はなんだったんだ?」
ブラコンだったことは1度もないんだけどね!
「原因かぁー……んー、俺よりも強くなりたいって宣戦布告を受けたって感じかな?ゆぅちゃんが高校卒業する頃に勝負することになったよ」
呪いとか従者とかの単語を使わないと、なんだか微笑ましささえ感じるくらい平和だよ。
「え、モリヤに勝つとか無理じゃね?」
今のままではそうだろうね。
「俺が参ったって言うか気絶するかしたらゆぅちゃんの勝ちだからー……どうだろうね」
タップするかKOされるかって意味に聞こえるから、寧ろゆぅちゃんの難易度が上がってる追加ルールに聞こえる。
「いや、だから弟クン不利過ぎない?モリヤ3徹位してから挑んでやれよ?」
フラフラの状態で戦えと?
「万全な状態で、全力でいくよー。ゆぅちゃんには強くなって欲しいからね」
「無慈悲っ!」
まぁ、なんとでも言ってくれ。
「それより、今日はグランドに出て最終確認だっけ?本番明日だけど、ダンス振り大丈夫?」
体育祭は明日だ。
「俺はモリヤの後ろだから、モリヤの動き真似するだけ。振り間違えたら漏れなく俺も間違える」
そっか、レオは俺の後ろだっけ……俺は1番前だから参考に出来る人がいない。
今この場で最初から最後まで踊ってみろと言われれば恐らくは間違えずに踊れるだろう。
それだけの練習量をこなしてきたわけだし……だけど、本番となればなにが起きるか分からない。
「斜め前の人の動きも参考にしてくれると嬉しいかな」
もしかしたら緊張のあまり頭が真っ白になって振付が全て吹き飛ぶ可能性だってあるのだから。
「大丈夫!モリヤならキレッキレに踊ってりゃサマになるから。それが正解だから」
いや、適当じゃ流石にダメでしょ。
「ならキレッキレで最初から最後までボックスステップだけど、それでいい?」
「お?なら俺もキレッキレボックスにするわ」
ふふっ……。
「いやいや、2人してなにを練習した時間無駄にする宣言してんのさ!これだからツッコミ不在の会話は怖いんだよ」
ポコンと軽く頭を叩かれてから振り返ってみれば、今日の今日まで図書室で勉強に励んでいたノブユキが立っていた。
流石にグランドでの最終確認は本番と同じように全員参加のようだ。
「体育祭が終わって、少しずつ卒業に向かってくんだよな……」
レオはそう言って机に顔を伏せ、窓の外を眺めている。
高校を卒業したら、ノブユキは進学だしレオは就職、俺は祓い屋、もしくは従者。
「まだ文化祭があるよ。クリスマスとかお正月、の前に中間テストと期末テストか」
卒業式は、少し寂しいから言わないでおくよ。
「テストのことは、言わない約束だ」
そうか、まだ留年する危険性があるのか。




