兄弟喧嘩 3
夜中の公園、普通の公園ならば少しばかりヤンチャな者が何人かいてもおかしくはないが、俺は1人深夜の公園にいた。
場所は家から10分程の所にある公園のトイレ、大通りに面しているわけではなく周囲を民家で囲われているというわけでもないその公園は、不自然なほどいつも静かで、公園の中央には何かを封印したとみられる大きな岩があるだけ。
もはや公園なのかどうかも怪しい広場だ。
そんな場所にどうして来たのかと言われると、今日の依頼現場がここってだけ。
特になにかしらの事件かあったという訳でもないのに依頼が来た……それも匿名希望の手紙が直接小宮家の郵便ポストに入れられるという手法で。
依頼を達成した際の報酬の話しもなければ、細かな依頼内容もなくて、ただ位置情報と時間しか記されていなかった。
それだけならイタズラかな?ってことで流してしまうところだけど……手紙の文字が問題だったんだよね。
これは見まごう事無くゆぅちゃんの字。
なにか言いたいことがあるならご飯の時にでも言ってくれたら良いのに、態々夜中の公園の、しかもトイレって……。
幽霊が苦手な子が、曰くつきの公園にどんな顔してくるのかは興味があるけど、指定されている場所は”公園のトイレ前”ではなく、”トイレの真ん中の個室内”なので、指定の時間の少し前には個室に移動しなければならない。
いやだなぁ……。
あ~、でも、そろそろ手紙に書かれた時間だな。
個室内は想像していたよりも綺麗はあるけど、決して清潔とは言えない位の微妙な感じで、更には少々難易度が高めな見た目をしている霊体が虚ろな表情でうろうろしていた。
でもトイレって場所は空気がよどんでいるし常に水かある場所だから、どこにでもいるものだし、特別この場所だからってことはない。
しばらく待っているとトイレに向かって足音が近づいてきて、コンコンと俺が入る個室のドアをノックする音が聞こえた。
どうしようかな……一応ゆぅちゃんだということには気が付いていないふりをした方が良いのかな。
「こんばんは、小宮と申します。ご依頼の手紙を受け取りました」
さてと、どんな依頼かな。
「……来てくれて、ありがと……俺、その、相談したいことがあって……」
ゆぅちゃんせめて声色は変えて!
ドアのせいで顔は一切見えないけど、声で丸分かりだから!
え?これは正体を隠すつもりがないってこと?それとも顔が見えなきゃバレないとか思ってのこと?
困ったぞ……。
えっと、ここはしばらく気が付いていない感じでいこう。
それに俺とゆぅちゃんは喧嘩中だったしね。
「なんでしょうか」
祓い屋にする相談と言ったら、そりゃお祓いに決まってるんだけど……ゆぅちゃん幽霊見えないからな……それに俺があげたメガネの効果で俺よりも弱い幽霊は寄って来ない筈だし。
あ、それでポクタロウとカンタロウが近付いて来なくなったとか?
「えっと……知り合いの秘密を知って、それで……なんて言ったらいいんだろ……」
どうやら全く違うようだ。
知り合いの秘密か……悪意があればあるほど気まずくなるよね。しかもそれで祓い屋を頼るっていうんだから、相当な悪意がある。
「俺、他の人にも聞いたんだ。その……呪い?をかけてる人に止めてもらうにはどうしたら良いのかって」
呪いねぇ……。
他の人にも相談したって、変なことを言われてなければ良いんだけど。
「それで、どうされました?」
「呪いを受けてる奴が、助かりたいって思わなきゃ駄目だって……でも、そいつ、助かりたいって思ってないんだ。俺、どうしたら良い?どうしたら良いんだよ……」
いやいや、呪いでしょ?
助かりたいって思っていてもかけられた方はかかるからね?
呪いの種類にもよるし……。
まぁ、相談を受けた人が面倒事には関わりたくなくて適当なことを言ったんだろうけど。
「呪いの種類は分かりますか?」
「分かんない……知ってる……んだよな?」
あ、ここで他人のフリは終わりなのね。
しかし呪いか……かけてる人にも、かけられている人にも覚えはない。
「知らないよ」
知ってることを前提にされていた感じだから、当事者は身近な人物か?
呪いという手法を使う所を考えれば、俺の弟子ではなくて親父の門下生かな。
「嘘付くな!知ってんだからな……俺っ俺だけ、なにも知らなっ……俺だけ……」
何故泣く!?
え?
ちょっと、ゆぅちゃん?
ドアを開けて個室から出てみれば、ドアの前には小さく座り込んでいるゆぅちゃんがいて、案の定泣いている。
一体なにがあったというのだろうか……呪いをかけられている方の子に恋心でもあるとかかな?でも相手の子は助かりたいとは思ってないんだっけ。
助かりたいって気持ちが呪いを解くのに必要なんだとしたら……生命力?
え?生命力が関係するなら呪いってよりも攻撃に近いんじゃないの?
いや、まぁ呪いも攻撃の一種だけど。




