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鬼がいる町  作者: SIN


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幸せな家族 3

 新田家の面々が帰ったのは、それからスグだった。

 そしてどういう訳なのか、ユイ様はユウカ様とモリヤ様を連れて夕食の買い物に行くと言い出したのだ。

 当然、ユウト様も一緒に行きたいと言ったが、硬い表情でユウイチ様が止めている。

 初めて自分が名指しで買い物に連れて行ってもらえる。と、そんな喜びも微塵に見せないモリヤ様は、なんなら少しばかり面倒臭そうだ。

 そしてもう1人、ユウカ様によって指名された私が一緒に行くことになった。

 この組合わせは、なんなのだろうか?と首を傾げてみた所で、私には拒否権などはないのだが。

 だけど、小宮家の敷地外でモリヤ様がどんな扱いを受けるのか心配しながら帰りを待つより、隣にいられるのなら安心だ。

 歩き出してしばらく、大通りに出た所でユイ様はユウカ様を歩道側に移動させながら何気なくこう言った。

 「ユウカは危ないからこっちを歩きなさい」

 なんのことはない母親らしい台詞ではある。

 その少し前に、お前はこっちを歩けとモリヤ様を車道側に立たせる行動がなければ、だが。

 それでも、この程度のことは小宮家では日常茶飯事だった。

 日常過ぎて、私ですら問題視しない程に。

 だけど、急に立ち止まったモリヤ様は無表情で言ったのだ。

 「俺は良いんだ?」

 何故だろう、すぐに否定しなければならない気がした。

 本当だったら小宮家の方々がいる時には、自分からは挨拶以外してはダメなんだけど、そんなのもどうだって良いくらいに強くそう感じた。

 「良くありませんよ!」

 強く、強く否定した。

 ユイ様は無反応、ユウカ様は鬱陶しそうに、そしてモリヤ様はビックリした風に目をパチパチさせて私を見た。

 なにその顔可愛い。

 「勝手にしゃべって良いの?」

 と、ユウカ様は隣にいるユイ様に意見を仰ぎ、私の方を指差す。

 と、私の前に立ち塞がるモリヤ様。

 「俺が話しかけた。勝手じゃない」

 ご迷惑を、かけてしまった……。

 「ユウカちゃん、勝手に喋ったモノ、駆除しちゃっていいわよ」

 駆除!?

 そんな害虫かなにかみたいに……って、そんな場合じゃない。

 駆除対象って私じゃない!

 え、ちょっとこれ危ないよね?

 「ゆぅちゃん、なにもしなくて良いからね」

 あ、モリヤ様ってユウカ様のこと、ゆぅちゃんって呼んでたのね。

 子供同士は結構仲が良かったのかな?

 そんな感じは全くしなかったけど……。

 「駄目。私知ってる、モリヤはにぃにの従者になるから、にぃに以外のモノを守っちゃ駄目なんだよ。だから私はその後ろにいるのと、ハヤテを駆除する」

 ハヤテ君まで!?

 ちょっと、ちょっと待って。

 え?

 もしかして小宮家と新田家の母親達が言ってた候補ってのは、従者の候補ってこと!?

 嘘でしょ!?

 モリヤ様は生きてるのよ?

 生きてるうちからそんなこと……だって、従者って幽体とか妖怪とか、そういったモノと術者が契約してなるものだから……。

 「もう1回忠告する。なにもするな」

 ユウカ様はなにも答えないし、ユイ様もなにも言わない。

 だけど、ユイカ様は手のひらをこちらに向けて構え、それを見たモリヤ様も構えの姿勢を取って。

 「成仏させてあげる!」

 一瞬光ったように見えたユウカ様の手、それと同時に足元がフワリとおぼつかなくなって、足の裏が地面を捕えなくなった。

 「駄目……消えちゃ駄目だ!」

 私が消えることを、駄目と言ってくださり、とても幸せです。

 けれど、こんな終わり方は少しも幸せではありません。

 私はモリヤ様に成仏させて欲しかったし、なんなら私がモリヤ様の従者になりたかった。

 それなのに、こうして無理矢理に成仏させられてしまう。

 抗いたいなぁ……。

 「もう1回」

 「やめろ!」

 再び私に手のひらを向けたユウカ様の手を掴んだモリヤ様は、ただ単純に私を狙えない方角へとつき飛ばしたのだろう。

 私から死角になる場所を、瞬時に選んで解き飛ばした。

 そこが、大通りの車道だということは、恐らくは突き飛ばした後になって気が付いたのだろう。

 「ユウカ!」

 酷く慌てたユイ様の声が聞こえる。

 聞こえるだけで見えない。

 耳に五月蠅いブレーキ音となにかが当たる鈍い音。

 聞こえるけれど、なにも見えない。

 「俺は……なにを……」

 私はこのまま消えてしまうのだろうか?

 本当に?

 こんな終わり方で良いのか?

 今まで見守って来たモリヤ様の、ここからが大変な時期だというのに応援することもできないというのか?

 嫌だ。

 だけど私はもうすぐにでも成仏しても可笑しくない状態だ。

 なにが残せる?

 なにが……。

 『ねぇ、良い修行方法はない?』

 在りし日の、モリヤ様の問いかけが聞こえた気がした。

 そうか、モリヤ様は誰よりも強くなることを望まれていた……例えそれがユウト様の従者になる為だったのだとしても、願いはいつも強くなることだった。

 なら、私にできることが最後に一つだけある。

 大した力にはなれないんだろうけど、ないよりはきっと役に立てると思う。

 だから、最後に受け取ってください……幽体として長年存在し続けてきた私の結晶。

 リッチに近しい存在となった私の微々たる妖力を。

 お受け取り下さい。

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