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鬼がいる町  作者: SIN


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幸せな家族 1

 優しそうな母親と父親がいる。

 そこには子供が2人いて、もう1人長男として住んでいる子供がいる。

 詳しく事情を知っているのなんかは昔から小宮家にいる数人しかいないのだろうし、私もそのうちの1人だけど、それを口外しようとはとても思えない。

 傍から見たら、小宮家は幸せいっぱいの幸福そうな家族だったのだから。

 「ねぇ、精神力を鍛えるにはどうするのが1番効率が良い?」

 初めて声をかけられたとき、私はその子の年齢を疑った。

 柔らかな笑顔を見せるその子の口調は穏やかで、優しそうではあったが、どことなく不気味な感じがしたのだ。

 まだ小学生の子供が、もう精神力だの鍛えるだの効率だのと言うのだから。

 縁側に座る私の横にちょこんと座るその姿は、まるで天使のように可愛らしいというのに……。

 「ユウト上手いぞ!」

 「ほらほらユウカも、お兄ちゃん上手いね~って」

 「にぃに!」

 小宮家の家族は、この子を見ない。

 長男として1歳の頃に連れて来られたこの子はモリヤ様といって、当主である小宮ユウイチ様の妹さんのお子様だ。

 妹さんが今どうしているのかは知らないけど、生まれて間もなく力を発揮するモリヤ様に恐怖心を抱いてユウイチ様に押し付けたという噂なら聞いたことがある。

 本当かどうかは分からない。

 ユウト様よりも1つ年上なだけだというのに、随分と年の離れた兄弟のように見えるのは、モリヤ様が落ち着き過ぎているからだ。

 子供らしい感情は持っているのだろうか?

 「ねぇ、良い修行方法はない?」

 幸せそうな家族の様子を見ても、ピクリとも表情を変えない姿に、こっちのメンタルがやられそうになる。

 ユウト様が今やっているボール蹴りなど、モリヤ様はもっと、もっと昔からお一人で!

 「……霊力強化なら、暗い部屋でロウソクを灯し、その炎を見れば良いと聞いたことがあります」

 「ふぅん……火事になるといけないから、他のが良い」

 しっかり、なさっているっ!

 「では座禅を組むのはいかがです?瞑想は精神鍛錬にとても良いのですよ」

 「うん、やる」

 モリヤ様は強くなることに興味があったのか、それとも強くなることを強要されていたのかはわからないけど、祓い屋見習いの所に行っては修行方法を訪ね、一緒になって修行をし、武闘の道場に行っては一緒になって鍛錬をしていた。

 大きな男に投げ飛ばされては受け身を取る練習をし、投げ飛ばされては着地の練習をし、時々失敗して不自然な格好で地面に落ちても泣きもせず、平気な顔で、何事もなかったかのように訓練を続ける。

 もう一度言うけど、小学生の子供がだ!

 そんなある日、モリヤ様は道場周りの掃除をしていた。

 季節は秋、紅葉が綺麗な時期だけど、落ち葉に悩まされる時期でもある。

 「次々落ちてくる。いっそ一気に落とした方が掃除も1度で済むのに、どうして毎日葉っぱの掃除をするの?」

 まぁ、言われてみれば確かにそうだけど、一気に落とせる術がないんだから、落ちてきた順に片付ける他ないし、どうせなら季節を楽しみたいじゃない?

 「紅葉は綺麗ですからね、1日でも長く楽しみたいじゃないですか」

 紅葉と月と日本酒とか風流じゃないです?

 「赤いのが綺麗なの?枯れた茶色の葉っぱと似てるのに?」

 モリヤ様の感情は、乏しいように感じられる。

 「赤色というのは情熱なんですよ。ほら、燃えるようでしょ?恋とかも燃え上がるっていうじゃないですか。燃え上がる闘志!とか」

 そして私は小学校低学年の子になにを語っているのだろう……。

 「アハハ、確かに聞いたことがあるよ。茶色の闘志!なんて言わないもんね」

 あ……モリヤ様が、笑っ……。

 「ふふっ……茶色の……闘志……あはは」

 何故だか笑い合ったその日から、モリヤ様は徐々に心を開いてくれるようになった気がする。

 本当に時々だけど、学校で起きたことを話してくれるようにも。

 作文を先生に褒められたこと、友達ができたこと、友達の家でゲームをしたこと。

 そんなある日、モリヤ様が怪我をして帰ってきた。

 どうしたのかとその場で駈け寄って聞きたかったし、傷の手当だってしたかった。

 だけど母親であるユイ様が、喧嘩をするのは駄目だとお叱りになっている最中に口をはさむ訳にはいかず、結局近付くことが出来たのは夕食の時だった。

 喧嘩をするような乱暴な子と一緒に食事なんてできない。

 そうやってモリヤ様だけ冬空の下に立たされていたのだ。

 道場側の庭ならばすぐに気付くことが出来たというのに、小宮家の家族が住んでいる建物の中庭だったため、気付くのが遅れてしまった。

 「遅れてしまって申し訳ありません。寒くはありませんか?」

 駆け寄ってみたモリヤ様の傷は、手当てを受けた形跡がない。

 「あ、えぇ大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 え……?

 余り表情のなかったモリヤ様が、ニッコリと満面の笑顔を向けてきた。

 「あの、手当を……」

 「あぁー……これ位なら数日で完治するので大丈夫ですよ」

 そしてテレたように頬をかく。

 「お腹はすきませんか?傷みませんか?本当に……大丈夫、なのですか?」

 満面の笑顔を向けてくるモリヤ様。

 こんな天使のような笑顔なんか初めて向けられているというのに、それが何故だか悲しい。

 「何故、泣くのですか?大丈夫ですから、ね?」

 小宮家に毒されてしまったモリヤさまは、優しげな顔で笑いながら私を突き放しているのだ。

 「お願いします!手当を、手当を受けてください!お食事を……とられてください!」

 また一緒に笑ってください。

 また、一緒に座禅を組んでください。

 「泣かなくて良いから。大丈夫、大丈夫だから」

 その日、モリヤ様は傷の手当を受けることも、食事をとられることもなかった……。

 翌日になって、1組の親子が小宮家を訪れた。

 お見舞いとしてケーキを持ってきた母親によれば、自分の子供が他の子のゲームを取ったらしく、モリヤ様が返せと家まで来たそうだ。

 その時この母親は家に不在で、子供は飼っている犬の首輪を外し、侵入する形となったモリヤ様を襲わせたと。

 昨日の傷は、子供同士の喧嘩で出来た傷ではなく犬に嚙まれたか、逃げる時に出来た傷。

 モリヤ様は誰からも怒られるような行動はとっていないのに、それなのに弁解もせずに黙って怒られ続けていたというの?

 「……可哀想にあの子、泣いて帰ってきましたのよ?でも、そんな理由があったのね……ちゃんと謝りに来てくれてありがとう。もうそんなことをしちゃ駄目よ?」

 ゾワッ。

 あんな優しげな顔で、平気で嘘を吐くのね……モリヤ様は泣きも喚きもせずに満面の笑顔でしたけどね!

 もう1度頭を下げて帰って行った親子の後ろ姿を少しだけ見送ったユイ様は、手渡されたケーキを確認してから家の中に向かって声をかけた。

 「ユウトーユウカー、美味しそうなケーキがあるわよー。いらっしゃいな」

 当然のように呼ばれないモリヤ様の名前。

 そのケーキは、モリヤ様のっ!

 「どうしたの?」

 おわっっと!?

 後ろから急に話しかけられて、ビックリして振り返れば、何処から持ってきたのかボールを抱えたモリヤ様が私と同じようにしゃがみ込んでいた。

 「怪我は大丈夫ですか?」

 犬に噛まれていませんか?

 怪我はその膝小僧の擦り傷と頬の傷だけですか?

 「うん。昨日はちょっと怖かったけど、逃げたから大丈夫。お腹もね、あの時友達の家でご馳走になったからいっぱいだったんだ」

 あぁ、そういう……。

 「今は?お腹空いてませんか?」

 今あの家の中では盛大なるおやつタイムが始まっているだろう。

 そんな中に帰す訳にはいかない!

 「んー……少し?」

 何故疑問形?

 「洋菓子と和菓子なら、どちらが好きですか?」

 「えっと……甘くないのが好きだよ」

 甘味だけ退けるとは。

 じゃあ、

 「チョコレートパフェとクレープならどちらが好きですか?」

 「パフェ……あ、違った。甘いのはね、苦手なんだよ、だから大丈夫」

 あぁ、モリヤ様……。

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