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鬼がいる町  作者: SIN


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生命力の維持 9

 どれくらいの時間が経ったのだろう、遠くから聞こえているような、すぐ近くで聞こえているような声が聞こえてきた。

 なにをしゃべっているのかは聞き取れないけど声の主は親父で、だから今聞こえてきているのは呪文かなにかだろう。

 どうやら訓練はここまでのようだ……。

 本当に、どれだけの時間が経った?

 餓死してないんだから3日とかその辺?

 1週間とか?

 どうでもいい、とにかく終わったんだ。

 ゴゴゴゴゴ……

 重たそうな音をたてて開いた岩戸と、外から容赦なく差し込む光。

 手で影を作っているのに眩し過ぎて目が開かない。

 バシィ!

 そして久しぶりの小さな衝撃。

 なに?急に……。

 「森岡リノだ?そんな者、あの場にいなかったぞ。嘘の報告をするなど情けない!」

 あー……そっか、もう成仏したのか。

 すぐに成仏するだろうなーと思ってたけど、予想していたよりも早かったな……でも、成仏できたことを恨むのは間違っているから、祝福しないとね。

 よいしょと起き上がって交差点の方角に体を向けて合掌と、1分間の黙とう。

 さて、なんだっけ?

 あぁ、嘘の報告、だっけ。

 俺がここに閉じ込められて何日経ったのかは分からないけど、反論とか弁解する時間もなく時間だけが経ってしまった。

 そんな中で事故の新聞とかの証拠を集めて提示した所で奪われた精神力が戻ってくる訳でもないし、あの時に奪われた精神力は既に全回復しているし、なんなら修行まで出来てるし。

 そして壊れた祠はもう建て直されたのだろうし。

 最早今となっては真犯人なんてどうでも良いんだろう。

 限りある依頼主、それを1人でも多く獲得したいがための足の引っ張り合い。

 他の連中は俺が壊したということにしたいし、それを理由に小宮家の信頼と評判を落としたいだけで真実がどうとか興味すらないんだ。

 「俺が高校卒業したら、破門でも勘当でも好きにしたら良いよ。で……まだ文句言ってくる奴っている?精神力の要求をしてくる奴とか」

 妖怪が6体もいる岩戸の中で全回復した上に修業したからね、少しだけ便利な能力が手に入ったんだよ。

 それを試し打ちしたいから、誰でも良いから1人位は強欲な人がいて欲しいな。

 「結界を張った者のうち、2人が今だに……」

 良かった。

 「誰?行って来るよ」

 「……毎日来ている」

 へぇ……。

 「今日で終わらせるから休んでて……ポクタロウも、カンタロウもごめんね」

 ガブリッ!

 2匹の頭を撫ぜようとして嚙まれた。

 嫌われたものだよ。

 目的の人物達が小宮家を訪ねてきたのは、お風呂に入ってちょっとすっきりしてからのこと。

 玄関に出てみれば、袈裟を着た人の良い笑顔を浮かべている2人の僧侶っぽい人物が立っていた。

 「お父さんと弟君はいるかい?」

 「迷惑料をもらいに来たと言えば分かるかな?」

 あー、そう。

 この2人はゆぅちゃんからも……あー、そう。

 「いえいえ、今日は俺がもてなしますよ?精神力ですか?生命力でしょうかね?」

 と、2人のこめかみ辺りをグリッと掴む。

 まぁ、アイアンクローだよね。

 「なにをっ!」

 「離せっアダダダ!」

 「いえいえ~迷惑料ですものね、遠慮なくどうぞ?で、精神力ですかね?生命力ですか?」

 グリグリ。

 「貴様っ!自分がなにをしているのか分かっているのか!?大事な祠を壊しておきながらこんなこと、許されると思っているのか!」

 不必要な大声ですね。

 まずはご近所さんへの不評を買わせようとしてるのだろうか?

 「人の手であんなに大破させられるわけないでしょう?事故による巻き込みだと新聞にも書かれていることです。車のタイヤ痕まで見つかっていると言うのに、言いがかりも大概にしていただきたいですよ、佐山さん!藤野さん!」

 「なっ!なにを!術を使えば小さな祠など吹き飛ばせるだろう!?」

 それを本気で?

 「俺のような半人前の術で吹き飛ばせられる程度の結界しか張れないんですか?手抜きでは?力不足では?結界を強化できなかった自分達の落ち度では?」

 「お前が車で轢いたんじゃないのか!?」

 えっと、それを本気で?

 「だから新聞を読むかニュースを見てください。犯人の車は大破しているんです。運転手の情報も出てましたよね?それに俺は無免許です!」

 「証拠は!?」

 「そうだ、証拠は何処だ!」

 証拠ねぇ……ここで新聞記事を見せた所で納得はしないんだろうから、森岡リノの記憶をたどるのが1番手っ取り早い証拠になったんだけど、成仏したし……。

 あ、もしかしたら。

 「証拠になるか分かりませんが、少しお待ちください」

 一旦2人の頭から手を離し、あの日の1件目の依頼主である林野さんに電話をかけ、娘さんの写真を見せてくれないかとお願いしてみたところ、快く応じてくれた。

 2人を連れて交差点に行けば、既に写真を持った林野さんの姿があったんだけど、今日は奥さんも一緒のようだ。

 「ご無沙汰しております。今日は急なお願いを聞き入れてくださりありがとうございます」

 ゆっくりと近付き丁寧に頭を下げ、ゆっくりとした口調で話し、両手で写真を受け取った。

 写真には一筋の意識がまだ残っている。

 よし、これならなんとかなるかも知れない。

 映像を逆再生する意識を持ってフッと息を吐いてみれば、俺の視界には見知らぬ玄関のドアが見えた。

 この状態を保ったまま片目だけ開けて2人いるうちの1人の頭を再びアイアンクローした。

 「目を閉じて、ゆっくりと呼吸してください」

 そう声をかけてから呼吸を合わせ、意識を共有するイメージで再び目を閉じる。

 「な、なんだ……この映像は……」

 どうやらこの人は人の意識の中を見たことがないらしい。

 「目を開けずに、このまま映像に集中してください」

 事故に遭う日の朝、父親に欲しい物を聞いて、次はビールを選ぶ場面とメタボだから糖質オフのビールを買う様子。

 そして差し掛かる交差点、青信号を確認したのに突っ込んでくる黒い車には森岡リノが乗っていて、ここで映像をストップさせて意識を森岡リノに移す。

 視界がグルンと回って、車の中に移動したことを確認したら逆再生。

 「な……なんだ、これは……」

 暴走する車の窓の映像を、スローで逆再生。

 すると、吹き飛ぶ祠がはっきりと映っている。

 「見えますか?この時に祠が壊れたんですよ。祠に残っていたタイヤ痕は、この黒い車の物です」

 と、こんな観光案内みたいなことをもう1人にもやって、証拠を見せた。

 1人目は人の意識を見る術は初体験だったみたいだけど、2人は自分もその術を使えたようだから説明は簡単だった。

 さてご両人、どうする?

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