表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼がいる町  作者: SIN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/35

生命力の維持 8

 家に帰り、2件分の依頼の報告をする前に気絶してしまったゆぅちゃんを部屋で寝かせ、親父がポクタロウを通じてゆぅちゃんの精神力の回復を施している。

 手厚い看病があるのは、いつだって俺以外の者に対してだけだ。

 いや、分かってるんだ。

 こうして枯渇した状態からの回復ってのが1番の修行になるってことは。

 うん、分かってるから大丈夫……けど、1番の修行になるのは、ゆぅちゃんも同じじゃないの?

 なんで、いつも俺だけ……。

 バシッ!

 意識が遠くなった所で頬に軽い痛みが走る。

 目を開けてみれば目の前には酷い形相の親父がいて……あぁ、母と同じ顔だ。同じ顔して並んでる。

 そんなさ、報告せずに寝ようとしただけでそんな怒る?

 いや、今の状況を考えれば怒って当然か……現時点であの祠は俺が壊したってことになってるんだから。

 「えっと、報告……」

 バシィ!

 「どうしてユウトを連れ回した!」

 おっと。

 え?

 あ、そっちか。

 えっと、どうして一緒に行こうとしたんだっけ?

 あ、走ってスピード系の強化を図ろうとしたんだっけ。

 「ゆぅちゃんは素早さが高いから、走り込むだけでも訓練になると思っ……」

 バシィ!

 「それだけの理由で危険な場所に連れて行ったのか!?」

 いや、叩き過ぎじゃない?

 口の中切れちゃった。

 「依頼内容は事故現場の透視とお線香をあげること、2件目は封印の確認作業でした。危険性が高い依頼とは思わずっ」

 バシン!

 うん、ここは来ると思ったから食いしばったよ。

 「だったら何故祠を壊した!?ユウトを危険な目に合わせて楽しいか!?」

 楽しい訳ないでしょ!?

 「あの祠は事故に巻き込まれて壊れたんだ。俺が壊した訳じゃない」

 数日前の事故だし、新聞とか確認したら分かると思うし、その犯人はまだ交差点にいる。

 まぁ、幽体なんだけど、それでも幽体が普通に見える親父とかお仲間の祓い屋連中になら問題なく見えるんだし、証人としては十分でしょ。

 「言い訳するか……見苦しいな」

 検証もしないで嘘つき呼ばわりですか。

 「事故を起こした者の名は森岡リノ。俺が昨日受けた1件目の交差点にいる。森岡リノの過去を見れば祠を巻き込んでる場面が見えるから」

 「お前のような半人前が、そのような術を使えたというのか?」

 えぇ、使えましたけど?

 しかも短時間の内に2回ね。

 従者がいない半人前でも、ここまで出来るんだよ。

 凄いでしょ?

 「ガルルルル……」

 今度はポクタロウまで俺を敵視するんだ?

 まぁね、ポクタロウとカンタロウはゆぅちゃんのことも、親父のことも好きだからしょうがないか。

 「疑ってる暇があるなら見て来いよ」

 無言のまま親父は俺の頭を掴むとそのまま歩き出し、中庭に出ると昔からそこにあった大きな岩の前に立ち、なにか呪文を唱え始めた。

 なにをするつもりだ?

 だけど、それはスグに理解できた。

 呪文を唱え終えた時、岩はまるで扉のように開き、その中にポイと放り込まれたから。

 これは岩戸、かな?

 で、ここはなに?

 結構奥まで空間が広がってるようだけど。

 「お前の精神力が高ければユウトにまで手を出されることはなかった。この中で反省しろ」

 え、それは良いけど、ここはなに?

 もうちょっと詳しい説明とかないの?

 「親父、ここって……」

 ゴゴゴゴゴ……。

 あ、閉まっていく。

 質問は受け付けませんって方針か。

 完全に戸が閉まると中は真っ暗だし、重苦しい空気感が漂っている。

 でも、特に変な気配はないように思えるし、ただの暗くて広い空間ってことで良いのかな?

 目が慣れるまでしばらく待って、なんとか薄っすらと景色が確認できるようになってみれば檻のようなものが確認できた。

 なにかが封印されていた?

 いや、でも檻は今も完全に閉まっているし、封印の術が発動している。

 ってことは、俺には見えないなにかが封印されている状態……つまり、妖怪だ。

 まぁ、封印されてる状態だし、見える状態でもないんだから、この時間を使って精神力の訓練をした方が良さそうだ。

 それに、少しでも精神力と生命力の回復もしたいし……ここに閉じ込められている間は依頼に行かなくて良いんだから存分に休めるじゃないか。

 散々顔色が悪いだの死相が出てるだのと言われ続けた日々も今日でおしまい、ツヤツヤになるまで

回復し尽くしてやろうじゃないの。

 座禅を組んで瞑想を始めたは良いけど、しばらくすると自分の腹の鳴る音が大きくなって集中が切れてしまった。

 親父の気が済むまではここに閉じ込められっぱなしなんだろうし、食事は期待できそうにないから、あまり動かない方が良さそうだな。

 なら体の力も極力抜いた方が良いだろう。

 よいしょと仰向けに寝転がり、足を肩幅に開いて手のひらを上に向ける。

 いつもの睡眠スタイルだ。

 時計の秒針の音も、車の音も、犬の鳴き声も、なにも聞こえてこない暗い空間。

 背中が少しゴツゴツしていることを除けば、物凄くリラックスできる。

 それに、依頼のことも考えなくて良い。

 背中が地面と一体化したみたいな感覚と、フワフワと飛んでいるかのような感覚、あー、これもうちょっとしたら寝そう……。

 寝たって良いか。

 回復させることが目的だもんね、寝て良いんだよ。

 おやすみなさいと完全に寝て、起きてみればぼんやりとした視界に岩肌が見える。

 どれだけ寝たんだろうと視線を泳がせるが、時間を測れるようなものがないから良く分からない。ただ空腹はまぎれているし吐き気とかもないから、何日も経っているということはないだろう。

 それに、精神力も生命力も回復しきった感じはないから、確実に1日は経っていない。

 「おい人間、起きているなら答えろ」

 あれ、声がする?

 あぁ、妖怪のいる空間の中で過ごしているせいで見える状態になったのかな?

 「もしかしてズット話しかけられてた?ゴメンね、今起きた所」

 起き上がらずに答えてみれば、返事があるとは思わなかったのか口ごもられてしまった。

 返事があると思わなかったのに話しかけてきたんだ?

 でも、ここに封印されたままなんだから暇だっただろうなぁ。

 「……お前は、妖怪退治ができるのか?」

 妖怪退治?

 どうやらこの岩戸は俺ではなくゆぅちゃんにとって重要な場所のようだ。

 「俺は幽霊専門で、妖怪に関しては普段全く見えないレベルだよ」

 「それなら何故入って来た!?一般人にとってここは毒でしかない!」

 あ、そうなんだ?

 「入りたくて入った訳じゃなくて、入れられたからしょうがないね」

 きっと親父も暗くて広くて静かな場所だから瞑想にピッタリ!って認識だったんだろうし……。

 「入れられた?お前は小宮家の当主ではないのか?」

 あれ?

 ここに封じられているのに、小宮家の人間との交流は全くなかったのだろうか?

 なら、親父はこの場所の詳しいことを知らなかった?

 毒かもしれない未知の場所に、なんの躊躇もなく放り込んだわけだ?

 まぁ、俺だから大丈夫って思われたんなら光栄だよね。

 「俺は当主じゃないよ」

 「なら当主は?妖怪退治ができる者はいないか?」

 ここでも重要なのはゆぅちゃんなのね。

 ってことは、小宮家の本当の能力って、祓いの力じゃなくて妖怪退治の方なんだな。

 なるほどね、これで全てが完璧に納得できたよ。

 ここで俺がいくら力をつけても、親父を超える霊力を身につけたとしても、従者を迎え入れたとしても、俺は一人前にはなれない。

 妖怪を見ることすらできない俺は、いつまで経っても出来損ないだ。

 はぁー、自分の中で分かってはいたことでも、こうして正解を目の当たりにすると本格的に空しくなるものなんだな……。

 「キミが望んでいるのは、ユウト坊ちゃんだね」

 まだ力は目覚めてはいないけど、強い妖力を既に持っている逸材。

 「ユウト……」

 あー、写真でも持ってきてあげれば良かったかなぁ?

 けど、もうすぐ会えるとは思うから、楽しみにしといてよ。

 それまで暇だって言うなら時々は遊びに来るし……その時に写真とか動画とか持ってきてあげる。

 「小宮家の箱入り息子だよ」

 大事に大事に育てられてるし、着々と強く成長してる。

 「そうか……いるのだな。良い情報をありがとう」

 穏やかな声が聞こえたのを最後に、声は聞こえなくなった。

 どうしたのだろうかと、少し頭を持ち上げて岩戸内の空間を見回してみたけど、その何処にも気配も、痕跡もない。

 出来損ないとはいくら暇であろうともなれ合う気はないってことですか。

 厳しいなぁ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ