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鬼がいる町  作者: SIN


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生命力の維持 6

 事故現場となった交差点に全速力で走って戻り、そこで再び森岡リノを呼んだ。

 「あら、さっきの人」

 自分が事故を起こした犯人のくせ、それでも被害者だと言った上に依頼主を上司だの不倫だのと嘘を並べ立てた森岡リノは、全く悪びれる様子もなく楽しそうに現れた。

 まぁ、久しぶりに会話の出来る者と会って楽しいんだろうけど、平気で嘘を言うような者と楽しくおしゃべりができるほど暇ではない。

 「ちょっと頭触るよ」

 口で聞いたところでまた嘘を言われる可能性があるから、術を使って過去を見ることにして、目を閉じた。

 事故当日、事故を起こす5分前からで十分だろう。

 閉じている視界に広がっているのは、ハンドルとダッシュボードと、フロントガラスと、高速で流れていく景色。

 この感じからして、相当スピードを出している。

 ハンドル捌きもフラフラとして危なっかしく、程なくしてバゴンッと何かに当たる音。

 景色からして今の音が祠を壊した音か?

 術を一旦中断して、再び初めからスロー再生で見る。

 今度は祠に注目して見てみれば、確かに車が右に流れた際に車体の後ろ側で祠を巻き込んでいた。

 決まりだね。

 「なんなの?」

 本当に、こっちがなんなのって言いたいよ。

 「この先にある祠、キミが壊したのは知ってるんだ。だからキミに拒否権はないよ」

 説明する時間ももったいない。

 「え?」

 頭を掴んだまま、森岡リノに向かってありったけの精神力を込めて術をかける。

 別になんの術ってことはなくて、ただ流せればいいだけの不発弾。

 だけど、これが大事なんだ。

 従者となった者は主となる者の精神力を食って、それを生命力に変えることができる。

 まぁ、親父とポクタロウ、カンタロウの場合は普通よりも固い絆ってのがあるから精神力を食べなくても生命力の供給はされてるし、なんなら精神力の回復までされてるけどね、信頼関係の全くない者同士だと、こんな感じだ。

 「なに?痛い……止めて!痛い!」

 「拒否権はないって言ったでしょ」

 無理矢理に精神力を食わせて、生命力にさせて、奪う……変換器みたいな扱いだ。

 俺に残っていたほぼ全ての精神力を無理矢理に頭からねじ込み、しばらく待てば森岡リノから死者からは絶対に感じることが出来ない生命力を感じられるようになった。

 だから、今度は無理矢理に俺が食う訳だ。

 「ギィヤァァアアアァァ!!」

 ふふふ……おかしいなぁ!

 死者でしょ?

 痛い訳ないよねぇ!?

 なにがそんなに苦しいわけ?

 ねぇ、ねぇ?

 「補充完了。困った時はまた使ってあげる、楽しみにしてて良いよ?」

 「や……やめて……もう、来ないで……」

 そうだね、多分もう来ないと思うし、恐らく次にここを通る頃には森岡リノは成仏してると思うから安心して。

 ちょっと荒々しい別れになっちゃったけど、君の生命力の変換能力はかなり高くて助かったよ。

 交差点から走り去り、封印の石が置かれている公園まで移動したら、そこでスマホのGPSをオフにした。

 ゆぅちゃんは「そっちに行く」と自信満々だったから、恐らくは俺の位置が分かっているんだと思う。

 だけど今のゆぅちゃんには探知能力的な術は使えないんだから、位置を知るのに文明の力を借りたんだと思う。

 つまりは、俺のスマホに勝手にGPSアプリをインストールしたんだろう。

 だからここでオフにしておけば、壊れた祠の場所まで来られることはない。

 それにここの封印は安定しているから、来るのならここが1番安全だ。

 どうせ帰れって言っても聞き入れないんだろうから、この方法が手っ取り早い。

 で、こうしておいてから親父にもメール。

 石の封印がある公園にゆぅちゃんを向かわせたよっと。

 後はスマホの電源も落としておけば完璧。

 さて、ゆぅちゃんと鉢合わせないように早いところ移動しないとね。

 と、全力疾走で戻ってきた祠の前。

 幸いなことに封印を突破して中に入ろうとするモノはいなかったようで、そこは静かだ。

 いや、でも封印の中に入ろうとしているのが幽体とは限らないのか……もし妖怪だったとしたら見えていないだけで、騒がしいまでの行列ができてしまっている可能性がある?

 俺に見えている世界は3分の2で全てじゃないなら、見えている光景を信じ切ってしまうのは危険だ。

 なら、封印の張り直しは出来るだけ早い方が良い……ここにいるのが俺じゃなくて、封印に詳しい人だったら良かったのに。

 パンッと手を打ち、まずは自分が入れるくらいの箱を召喚し、その中に入って座禅を組む。

 この箱は心霊的な才能がない人には見えないから、中に入ってしまえば俺の姿は見えなくなる。

 だからこの中で昼夜術の発動を行っていたとしても、気にする者はいないだろう。

 さて、祠の再建が早いか、オレの生命力が枯れるのが早いか、試してみようじゃないの。

 だけど、親父に連絡も入れてるしそう長期化することはないんだろうけどね。

 もしかしたらゆぅちゃんを家に連れて帰ってからこっちにも来てくれるかもしれないし、いくら遅くても明日には来てくれるだろう。

 多分ね……。

 「フゥ」

 軽く息を吐いて封印に似た効果のある壁の召喚をしようとして微かに感じた地鳴り。

 なにか来る?

 時間を確認しようとスマホを取り出せば、電源を切っているせいで時間の確認もできない状況。

 何か起きた時に時間の確認をするのは、報告の時に必要なんだけど……今は緊急事態だし、たったそれだけの為にゆぅちゃんがこっちに来てしまう可能性を作るのは駄目だ。

 結局祠の再建できるまではここにいなきゃならないんだし、今の時刻なんて全く重要ではない。

 ズゥゥン、ズゥゥゥン。

 地響きと一緒に足音のようなものまで聞こえてきた。

 相当デカそうだけど、戦った方が良いのだろうか?

 いや、倒した方が良いんだろうけど、勝てるのか?

 まぁ、勝ったならその魂を元にした簡易的な結界が完成するから、オレとしては戦った方が良いんだろうけど、歩くだけで地鳴りを起こせるほどの相手となれば完全勝利は難しいかも知れない。

 そうでなくとも今の俺には精神力がほとんど残ってないから、後1回……2回術を使えば理性を完全に放棄して暴れるバーサーク状態になってしまう。

 どうするかな……いや、今この場にいる俺が倒さなきゃ被害が出る可能性があるんだから戦う以外の選択肢はないのか。

 はぁ……物凄く足を踏みしめながら歩いているだけの普通サイズの敵なら良いなぁ。

 どんな敵なんだろなぁ~きっと大きいんだろうなぁ~。

 ガンッ!ガシャン!

 そして今は薄くなった結界を破ろうと攻撃をしているんだろうなぁ……。

 うん、見えねぇ。

 妖怪が来ちゃったかぁ……見えないんじゃあ攻撃しようがないから、せいぜい攻撃されているんであろう結界が破られないように壁を出し続けるしかない。

 とんだ消耗戦だよ!

 「……おい、あの下に変なのがいる」

 「え?何処?」

 「見えない?あの大破した結界の横」

 目を閉じて集中しているとそんな話し声が結構近くから聞こえて、目を開けて見れば3人組の青年が俺の方を指差していた。

 だけど、3人のうちの1人には見えていないようでキョロキョロしている。

 「そっからちょっと出てきてくれないか?そっちのデカブツを倒したいんだ」

 「トキ、その人は結界の維持をしてくれてるんだよ」

 1人はトキというらしい。

 「巻き込んだりしない?俺見えないからどう立ち回れば良い?」

 この3人は結界を破ろうとしている妖怪を倒しに来たみたいだから、俺が見えていない人のためにも箱からは出た方が良さそうだ。

 後は妖怪も俺も見えている2人に、詳しい現状を聞こう。

 「こんばんは、初めまして。小宮と申します」

 箱を消して立ち上がり自己紹介すると、突然俺が現われたように見えたらしい1人が大袈裟に飛びのきながらトキと呼ばれた青年の後ろに隠れてしまった。

 「うわー、あんた大丈夫?死者っぽいよ?形相が」

 言いたい放題だな。

 「コラ!初対面の人になって失礼な!」

 「幽霊だと思って隠れた奴には言われたくないねー」

 こっちも結構だな。

 「俺はトキ、コレはトウ、コレはミオリだ、よろしく。早速だが、俺達はそっちのデカブツを倒したいから、アンタはそこから5歩下がった場所でさっきの術を使ってくれ」

 キミはかなりマイペースなのかな?

 でも細かい指示は有難いよ。

 言われた通りに5歩下がった所で確認の為にここで良いのかと問えば、思ったよりも歩幅が小さいと言われ、追加で3歩下がった。

 「結界は、どんな感じですか?妖怪はどう破ろうとしてます?」

 「爪で引っかくみたいな感じだ」

 足音の感じから巨人をイメージしていたけど、爪攻撃か……なら結界はただの壁じゃなくて網目状のを何重か出した方が破られ難いかも知れない。

 「分かった。壁の形に注文があったら声をかけて下さい」

 パンッと手をうち、どうせ見えない戦いを鑑賞するつもりもないから目を閉じて集中する。

 「ははっ!おもしれぇ!」

 なにか面白いことがあったようだけど、目を開けてみた所でどうせ見えないんだろう。

 1枚目の網、2枚目の網と壁を作っていくと、ガガッと引っかかれるような感覚が全身に流れた。

 なるほど、壁が壊された時はこんな衝撃が来るのか。

 分かりやすくて良いな。

 なら、衝撃が来た分だけを出せば生命力の節約になる。

 今は2枚出している状態だから、後1枚増やして、後は破られるたびに1枚ずつ出そう。

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