生命力の維持 5
話しが止まり、俺は目の前にある大量の食糧に集中することにした。
これだけ食べれば後1件分の依頼はどうにかクリアできるだろう。
そしたらすぐに家に帰って眠れば明日の朝にはまた動ける。
お弁当のおかず、なににしようかな……冷凍してある作り置きって、後どれ位残ってたっけ?
なにもなかったら卵焼きとスパゲティーと……あぁ、ウィンナーがあったからそれを焼いて……。
ゴッ。
あれ?
なにか頭に当たっ……。
「兄貴?」
目を開けて見えるのは、これはテーブル?
それにバーガーの山と、その向こうにゆぅちゃんの顔。
「ゴメン、一瞬寝てたみたい」
考え事をしてるとついつい寝オチちゃうよね、例えそれが眠れるような雰囲気じゃなかったとしても。
いや、そもそもこんな雰囲気の時にお弁当のおかずについて考え始められるのが可笑しいんだろうけど、いくら疲れていようとも明日は来るんだし。
「やっぱり今日はもう止めて帰ろ?俺、親父に連絡……」
「やり切るから。頼むから連絡しないで」
食べたらよくなる。
食べれば動けるようになるんだ。
これを全部食べて、現場に行ったら封印とか結界とかの確認しておしまい。
今日はそれで本当に終わりだから簡単だ。
「……せめて明日は1日なにもしないで休むって約束して」
1日なにもしないってのは、ちょっと難しいんじゃない?
「せめて半日……」
「依頼なんか受けやがったら殴る。依頼させようとする親父も殴るから」
あぁ、それは一大事だ。
ゆぅちゃんに拒絶されたら、親父は寝込んでしまうんじゃないだろうか……しかも俺のためにだなんて知ったら……。
小宮家は、皆本当に仲が良いからね……幸せ家族って感じだったんだよ。
俺はそれをいつも見てたんだ。
ちょっと遠くからね。
良い家族だなーなんて思いながら、見てたんだ。
「ゆぅちゃんって呼ばれるの、嫌?」
でもこれは俺にとってはそこそこ重要だったから、いくら“ゆぅちゃんって呼ぶな”と怒られても呼び続けてきたんだ。
でも、呼ぶな、じゃなくて嫌だって言うならスグに止めるよ。
「嫌とかじゃないけど……あっ」
あ、嫌じゃなかったのか……。
ゴッ!
またか……。
どうやら俺は今相当眠いようだ。
こうなったら、もう今から依頼を達成して、戻ってきてから残りを食べよう。
そうと決まれば行動あるのみ!
「ゆぅちゃんはここで待ってて、依頼片付けてくる」
「え!?」
祠?祭壇?用途は良く分からない建造物の確認作業を5カ所、それが詳しい2つ目の依頼内容。
5カ所の建造物はグルリと遊戯もない空き地のような公園を取り囲んでいて、その公園には大きな丸型の石が1つ。
祓い屋に依頼が来るのだから、恐らくこの5つの祠のようなものは公園か、この石を封印するための物なんだとは思うんだけど……この公園自体にも封印があって、更に石自体にも封印がある。
相当恐ろしいものが眠っているんだろうけど、俺の仕事は祠の確認だけ。
まぁ、公園の封印も石自体の封印も問題がないんだから、祠もきっと大丈夫だろうし、パパッと確認してお店に戻ってー……。
「あらら」
おっと、つい声が出てしまった。
だけど、これはどうしよう?封印もなにも、まさか木っ端微塵とはね。
この一角だけ台風でもきたとか?
いや、何かが当たった……そう言えば、この道を真っ直ぐに行くと1件目の依頼で行った交差点に出るのか。
もしかして事故を起こした……えっと、森岡リノだっけ。
あの人が事故を起こす前から暴走していたんだとしたら?
人を轢く時にブレーキも踏まない位だから、酔っていたとかあり得る。
いやいや、ここで祠を壊した人物の特定をしても意味がない。
封印の1つが完全に壊された状況だから、もし封印を解きたいモノがいるとしたらここに集まってくる可能性は物凄く高い。
どうする?
俺の仕事は祠の確認作業だけど、ここで壊れてましたという結果だけを見てそのまま帰るのは違うよね。
えっと、封印ってどう張れば良いんだ?
多少破れそうになってる封印の強化ならできるし、しめ縄とか祠の補修とか、そういうのなら分かるしできる。
なんの問題もなくね。
だけど、1から全てをやれと言われたって分からない。
洋服をちょっと引っかけてちょっと破れたとか、穴が空いたとかならあて布をして縫うとか、布ボンドで補修するとかできるけど、1から服を作れと言われてもどうやって?となる感じ。
前見ごろと後見ごろと襟と袖の型紙を作って、その通りに布を切って、縫い代1センチ位で縫えば良いって、大まかな筋道は分かるけど、詳しいことって分からないし、着る人に合わせた寸法とかあるでしょ?
祠も同じ。
この場所にどんな形式の封印がなされていたのか、向きは?大きさは?目的は?
早く帰って寝たかったけど、見張るしかなさそうだ。
親父にも連絡を入れた方が良いだろうけど……まだ依頼中だったら悪いからメールで連絡しておこうかな。
後はゆぅちゃんに先に家に帰るように伝えないと……食べきれない分をお持ち帰りにして冷蔵庫の中に入れておくんだよーっと。
ゆぅちゃんには通話で良かったんだろうけど、なんだか怒られる気がしたからメール。
結構重めの話をしていたような気もしなくはないし……あぁ、食事時にするような話しじゃないでしょって位には重すぎる話題だったっけ。
ピロン。
返信を告げる音がして確認してみると、意外なことに親父からだった。
そうか、今日の依頼はもう終わったのか。
だったら気兼ねなく応援が頼めー……。
『家にユウトがいないが、何か知らないか?』
あー、その説明してなかったっけ。
今日の依頼は簡単だと思ったから、訓練の為にランニングを一緒にしてたんだよ……と、これだけじゃ説明が足りないな。ゆぅちゃんは今近くのファストフード店にいて、もうすぐ帰ると思うよ。
これでよし。
ピロン。
返事早いな。
「……うん」
画面に表示されているのは親父からの返信なんだけど、なんだろうな、物凄く怒られてる。
こんな時間に連れ回しては駄目、何故勝手に連れて行ったんだ、ユウトになにかあったらどうするつもりだ。
これは多分通話だったら気にならなかったんだろうな。
だって親父は声を荒げないし、口調が優しいから、今感じているような疎外感はきっと抱かなかっただろう。
ゆぅちゃんは俺よりも1つ下なだけだから、高校2年生だよ?
俺、去年からこんな感じで深夜にも依頼受けてたよね?
良いんだ。
俺は良いんだよ。
そうだ、昔からそう。
俺はなんだってできるし、なんだって許されてた。
長男だからね、弟と妹のお手本だし、しっかりしてる良きお兄ちゃんだ。
そう、俺は1歳の頃からお兄ちゃん。
ゆぅちゃんは窮屈だろうなぁ……きっと俺が10歳の頃にしていたことですら危ないという理由でさせてもらえないんだろう。
ただ弟だからってだけで、いつまで経ってもお子様扱いされてるんだもんね。
「ハァ……あんたも、そうだったもんね」
そう言って少し後ろを向けば、酷い目で俺を睨んでいる母と目が合った。
ピロン
少し間が開いてまた音がしたから画面に目を落とすと、今度はゆぅちゃんからの返信。
『ふざけるな、今そっちに向かってる』
はぁー……。
いいよ、分かった。
ゆぅちゃんがここに到着するまでに、なんか色々片付けておけば良いんでしょ?
簡単だよ、封印のやり方が分からないなら、分かる方法で簡易的に封印を作れば良い。
2,3日位だけでもなんとか持ちそうな封印で良いんだから簡単だよ、やってやるさ。
ただ少し生命力が足りないから、破壊した本人の協力を仰ごうじゃない。




