生命力の維持 4
2件目の現場に行くまでの道中にあるファストフード店に入り、バーガーとポテトを10個ずつ、コーラを2つ注文して席に座った。
「じゃんじゃん食べてね」
時間的にはちょっと……かなり遅いけど、回復の基本は食事と睡眠って言うでしょ?
睡眠が無理なら食事しかないからね!
「いつもこんなに食うの?」
夜食にってこと?
それとも気力回復にってこと?
「ただの夜食なら食べないけど、回復が目的なら、これ位は食べるかな」
だから基本的には1番安いメニューだね。
「大変なんだな……親父はどうやって回復させてんだろ」
ふふ、確かに親父が俺と同じ方法で精神力や生命力を回復させているんだとしたら、消化を助ける薬は必至だろうね。
だけど親父はこんなに食べる必要もないし、何日も寝込む必要もなく、その日の不調はその日の内に回復出来る術を持ってるんだよ。
2匹分ね。
「ポクタロウとカンタロウが親父の守護をしてるって話しはしたよね?」
1匹は親父について行って、もう1匹は家の守りをしてくれているんだけど、その時の足音を聞いてゆぅちゃんが怖がってた時に。
「うん……音しか聞こえないけど」
音の主が分かれば怖くなくなったらしく、姿が見えないことが少し寂しそうだ。
小宮家の中で1番純粋に可愛がってたもんね……2匹の名付け親もゆぅちゃんだし。
「守護と言っても守護霊とかじゃなくて、従者だよ」
一緒に戦うこともあるし、精神力の回復や生命力の回復までしてくれるパートナー……従者がいて初めて一人前になれるんだって親父が言っていた。
だから俺はまだ半人前。
でもさ、半人前のままで良いんだ。一人前になんかならないよ。
なりたくないしね。
「フーン。兄貴にはいないの?」
この話しの流れていると思ったのかな?
「いないよ。だからこうして食べてるんだよ」
「じゃあ親父はポクタとカンタがいるから食べなくても回復出来るってこと?」
そうそう、
「そういうこと。親父がしんどい~って顔をしたことある?」
「ない……回復力が凄いんだな?」
そうそう!
「しかも2匹いるからね、親父は1人いるだけで2人前だよ」
2人前って言い方は合ってるのだろうか?
2人分とか2倍?
それとも俺4人分、とかかな?
そう考えると親父ってバケモノだな……。
「じゃあなんで兄貴はつけないんだよ!回復してくれんだろ?なんかつけるための儀式とかいるの?どうやんの?手伝うからつけてくれよ……」
ゆぅちゃん、急に怒鳴るのは止めようね?
喧嘩してると思われて追い出されるよ?
でも、言われていることは確かに最もだなーとは思ってるんだ、これでもね。
散々親父からも言われ続けてきたことだし、実際従者がいた方が強くなれるし、依頼も今よりもっとこなせるし、難易度の高い依頼も任せてもらえるようになるし、そうすると依頼料が飛躍的にアップするし。
悪い所なんかないんじゃない?って位にはいいとこだらけなんだよ。
人間にとってはね。
だけど、従者になる方はやれ戦え、回復しろとこき使われる羽目になるんだ。
例え初めはパートナーって考えがあったとしても、途中で嫌になることもあるだろう。
それでも1度従者になったら、術師が解約しない限り従者であり続けなければいけない。
そんなブラック企業みたいなこと、したくないんだよ。
親父の場合はポクタロウとカンタロウが親父に懐いているし、一緒にいられることに喜びを感じているし、親父もちゃんと定期的に2匹と遊んだりしてガス抜きしてるしで安心。
良い関係って言うのかな?お互いが好き同士。
「……従者をつけるとね、その相手に命を握られるのと同じなんだ」
主に生命力を回復してくれる従者は、俺にとってはなくてはならない存在になるのだろう。
そして、やがては回復するのが当たり前という戦い方になっていくのだろう。
常に必殺技が出せる状態になる訳だから、少し手ごわいなーと感じるだけで、術を発動させることだって多くなるかもしれない。
動けなくなるギリギリまで生命力を消耗するような戦い方になるかも知れない。
そこで回復されないだけで、容易く死んでしまう。
常に生命力を節約して戦うように意識すればそんなことにはならないんだろうけど、そうやって戦うなら別に従者なんかいらないし。
「回復できるってことは、消耗させることもできる……とか?」
あぁ、そういうことも出来るかも知れないね。
「要は命を預けられる相手かどうか。信頼できる相手かどうか。縛り続ける罪悪感に耐えられるかどうか」
後は、常に一緒にいられるかどうか、かな。
それについては、常に後ろに立っている人はいるんだけど……。
「その、従者って幽霊じゃないと駄目なんだよな?」
「ん-ん。ポクタロウとカンタロウは幽霊ってよりも妖精とか精霊とかそっち寄りだし、見えているなら妖怪でも良いと思う。契約が結べるだけの知力がある相手ならなんでも良いんだよ」
だから、同じ精霊でも風とか土とか水とか火とか、そこに存在しているだけのモノは従者に出来ない。
人型であっても、完全に悪霊になってしまって話しが通じない人も無理。
逆にこっちの言葉に反応を返してくれるのなら、犬でも猫でも魚でもなんだって良い。
「兄貴、なんかペット飼ってみたら?」
それは、どうなんだろう……。
「死後は使いっ走りにしますよーって気持ちで世話をするんだ?」
俺だったらそんな飼い主嫌だなぁ。
「愛情込めて育てるのは難しいだろうけど、それで兄貴が元気になるなら良いと思う」
俺が元気になったら嬉しいの?
優しいね、ゆぅちゃんは。
いや、覚えていないだけか?
「……ゆぅちゃんに妹がいたことは、覚えてるよね?」
ゆぅちゃんよりも5歳下だったから、生きていれば中学1年生か。
本当なら、そんな年齢の妹がいたんだ。
「うん……兄貴ってさ、ユウカがいなくなってからだよな……俺のことゆぅちゃんって呼ぶようになったの」
そう……だっけ?
いや、違う。
「それは違うよ。ユウトとユウカ、だよ?親父たちも散々言い間違えてたでしょ。その度に2人が嫌そうな顔をするから、呼び間違えても良いように“ゆぅちゃん”って呼ぶようにしたんだ」
それはそれで“どっちのこと?”って言われたっけ。
「あ、あー……うん、そうだった……ゴメン、話しの腰折った。ユウカがどうしたって?」
……話し出しておいて今更だけど、言い辛い。
言ってどうしたいんだろう、どう思われたいんだろう。
そうだね、出来るだけなんの言い訳もなく、そのまま伝えよう。
「俺と母さんとユウカの3人で買い物に行った時、俺が車道側に突き飛ばして、それで轢かれて死んだんだよ」
なんの装飾もしなければそういうことになる。いや、丁寧な装飾を施した所で突き飛ばして殺したことに変わりはない。
「え……?」
当時はただの事故で片付けられたけど、違うんだ。
「俺が、突き飛ばした」
ね、もう分かったでしょ?
俺には誰かに善意を持って助けてもらえるだけの価値も、資格もない。
それを忘れないため、忘れさせないために俺の後ろにはいつも鬼のような形相の母が立っているんだから。
親父も俺に話しかけてても視線をちょっと上の方を向けてるから、いまだに俺は誰からも見られていない。
別に、構われたいって願望はないし認めてもらいたいなんて考えたこともないし……じゃあなんなんだろうね、酷く空しいこの気持ちは。
いや、違うか……逆だ。
もっと難易度の高い依頼を俺に押し付けて、連日こき使って、生命力をガリガリに削って欲しいのに、ぬるま湯に浸されているのが居た堪れないんだ。




