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鬼がいる町  作者: SIN


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生命力の維持 3

 自分の娘が事故現場に留まっているのは居た堪れないんだろうなとは思う。

 だけど、もし祓うことを望んでいるのなら、そこはやっぱり成仏って言葉を選ぶんじゃないだろうか?

 気が動転していて言葉を選べなくなってるって可能性もなくはない?

 それとも俺が祓い屋だから、敢えて祓うって言葉を選んだとか?

 まぁ、俺の場合は神に祈って霊体をどうにかしてるんじゃなくて、自分の精神力とか生命力を消費して、技によって解決させてるって感じだから、正確に言えば祓い屋とは言えないんだし、消滅させてくれとか、そこら辺の言葉を選ばない限りは問題視する必要はないのかも知れない。

 「貴方、祓い屋なのね」

 あっと?

 霊体から思ったよりもはっきりと喋りかけられるなんて思ってなかったからちょっとビックリしたよ。

 だからってこっちもハッキリと返事をすると妖しいから、頷くだけにとどめよう。

 「もし祓うのに名前が必要になるのなら、貴方に私は祓えないわよ?」

 え?

 どういうこと?

 特に名前は必要にならないけど、そう言われると気になるじゃないか。

 「林野、アイリさん?」

 依頼主の苗字は林野だし、依頼主は娘って言ってたし、娘の名前はアイリとも言ったんだから、林野アイリじゃないの?

 あ、母方の姓を名乗っているとか?

 「森岡リノ。それが私の名前」

 えー……っと。

 全然違いますね。

 この依頼主は何故嘘の名前を?

 それとも俺が別の人に話しかけられてる可能性?

 もう良いや。

 「依頼主さんとの関係は?」

 堂々と話しを始めると、依頼主はパッと顔を上げてキョロキョロと辺りを見回して手を前に出してなにかを掴もうとする動きを見せた。

 「いるのか?いるんだな?何処だ?父さんだよ」

 ウロウロしている依頼主は知らないのだ、集まってきているほぼすべての霊体と接触しているという事実に。

 「ソイツは私の父親ではないわ。私を引き殺した犯人なんだもの」

 あー……そういう……えぇ~……。

 「でも君の写真を持ってたけど……」

 「頼む、早く娘を助けてやってくれ……頼む!」

 おっとと。

 必死なのは良く分かるんだけど、急に掴まないで貰えませんかね?

 「上司よ」

 上司!

 「不倫を迫られたの」

 不倫!

 「断ったら轢かれたわ」

 わー……。

 そんなドラマみたいなこと……じゃあちょっとお線香の準備を始めておこうかな。元々そういう依頼内容だったし。

 「えっと、どうしようかな……林野さん、森岡リノという女性をご存じですか?」

 とりあえず、ここにいるのが森岡リノと名乗る女性であることを共有しないとね。

 「……誰だ?」

 話しは食い違うのか。

 じゃあもう1回質問。

 「林野さんの娘さんの名前は、本当に林野アイリさんですか?」

 「もちろんだ!黒髪で、これ位の長さで……そうだ、恋人に貰ったという指輪を左手の薬指にいつも嵌めていた」

 セミロングで黒髪……ふむ。

 森岡リノの髪は明るめの色でショート、ロングではないし左手の薬指に指輪はない。

 どうやら別の人物の話しを聞いてしまっていたらしい。

 だけど、この人が依頼主に轢き殺されたと証言しているのは何故だ?

 上司だとか不倫だとか……。

 あ、そうだ。

 「森岡リノさん、林野さんのフルネームが言えますか?」

 言葉に詰まる森岡リノ。

 「……林野さん、申し訳ありません。娘さんの魂は、この場所にはいらっしゃらないようです」

 「そうか……念のためこちらも見てくれないか?」

 そう言って少し離れた所に俺を引っ張った林野は、曲がりくねったガードレールに向かって両手を合わせた。

 事故現場は交差点でも、遺体はここまで……。

 周囲をくまなく見るが、それらしい人影はない。

 「ここにもいらっしゃらないようです。あの、ご自宅も見ましょうか?」

 「良いのかい?ではこちらに……」

 依頼主は家にまで案内するつもりだったようだけど、少し術を使えば霊視は簡単……ってこともないけど、できる。

 「先ほどの写真をお借り出来ますか?」

 と、手にした写真に意識を集中し、そこにある1つの意識を辿っていく。

 見たいのは、事故の日の様子だ。

 キュルキュルと映像を逆再生する意識を持ってフッと息を吐いてみれば、俺の視界には見知らぬ玄関のドアが見えた。

 靴を履きガチャリと開けたドア、少し眩しいと左手で顔に影を作り、その薬指には指輪。

 「お父さん、帰りにスーパー寄るけど何か欲しい物ないー?」

 家の中に呼びかけ、中から聞こえてくるビールの答え。

 その声はまぎれもなく依頼者の声だ。

 パッと場面が変わって、ビールの品定めをしている様子が見える。

 「お父さん最近メタボだしなぁ、糖質オフがいいよね」

 メタボ……。

 目を開ける訳にはいかないので、少し気になった依頼者の腹部は一旦忘れて映像に集中する。

 スーパーから出て、帰路につく……そして差し掛かったあの交差点。

 青信号になってから渡り始めたのに突っ込んでくる黒い車……少し、スロー再生……。

 あぁ……。

 ブレーキ音もなにもなく轢かれ、勢いよくガードレールに。

 そして黒い車は反対車線にあるあの電柱へ。

 フラリと体から抜け出した魂は、フラリフラリと帰路を漂い、自宅に戻り、そして今は……。

 目を開けて反対車線の電柱に視線を送れば、真新しい電柱と、その下には花束。

 「お嬢さんは、生前お気に入りだったのでしょうか、テレビの前のソファーに座っていましたが、今は無事に成仏されていますよ……えっと……メタボだから糖質オフにして欲しかったそうです」

 そうしてお辞儀をする序に腹部確認してみたんだけど、メタボというほどでもないような?

 まぁ、それはともかくとして、依頼達成。

 一応電柱の前にもお線香をあげて……。

 交差点にいる森岡リノはどうしようかな……半分悪霊化してる感じはあったけど、しっかりと話しは通じたし……でも今の俺に祓えるだけの力が残っているかどうか。

 ここは親父に報告だけして、2つ目の依頼に向かうとしよう。

 「ゆぅちゃんお待たせ、2件目行くよ」

 「待って。兄貴汗凄いけど、大丈夫なんだろうな」

 汗?

 あぁ、汗ね……まぁ、ちょっと難しい術を使ったからしょうがないね。

 でも、使ったのは精神力で発動させる術で生命力じゃないからノーカウントだよ。

 「大丈夫。走って移動できるぐらいには元気だよ」

 最後の気力を振り絞ればね。

 帰りはゆっくり歩いて帰ろうかな、それとも、初乗り分だけタクシーを利用しようかな。

 いや、どうせ乗るんならもう家まで乗ってしまおうかな?

 でも勿体ないしなぁ……今日の依頼料っていくらなんだろ、それ以上の金額がかかるんなら働いた意味がなくなるし、ギリギリまでは徒歩で帰って、もう駄目だーってなったらタクシーに乗ろう。

 「もう走りたくない。足痛い」

 え……え?

 「足痛いの?大丈夫?家まで送ろうか?」

 家まで帰れたらちょっと休憩して、少し気力が回復してから2件目に行っても良いかな?

 2件目は状況の確認だけだから、現場に依頼者は来ないし。

 「着いてく……けど、ちょっと疲れたからジュース飲みに行こう」

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