表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼がいる町  作者: SIN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/35

肉体派の祓い屋 1

 少し遅くなった帰り道、徒歩でも十分に帰れる距離だったにもかかわらず、歩いて帰るには疲れていて、俺はバス停に立っていた。

 家に帰ったらなにをしよう?

 まずは靴を脱いで、着替えて……その前に風呂に入るか。いや、眠いな……あぁ、何をするよりも先に親父に依頼の報告か。

 夕方の帰宅ラッシュの少し前、バス停の列に並びながら軽く目を閉じ、ほんの少し未来に思いを馳せていると、目を開けてもいないのにフッと映像が見えた。

 目で見ている訳ではないのは確かだけど、脳裏に?ぼんやりとした映像が……。

 今並んでいるバス停の後ろに石段があって、その前に立っている俺と、何人かの人がいて、フワリと舞う、花?

 とても綺麗な映像で、だけど、もっとハッキリ見ようと思えば思うほど映像は黒くなり、やがて、何も見えない暗闇に。

 特に変な気配は感じなかったから、コレは一瞬だけ寝オチてしまったことによる夢か何かだろう。

 そう結論が出て目を開けると、闇に慣れていた目を西日が容赦なく刺激して、クラクラと眩んだ。

 「大丈夫ですか?」

 頭を押さえているとそう声をかけられ、慌てて目を開けて見ると、横に1人の小学生が立っていた。

 見上げてくるその顔は不安そうだ。

 バスの列に並んでいる訳ではないから、ただの通りすがりなんだと思う。

 それなのに人の体調を気遣えるなんて、優しい子だなぁ。

 「あぁ……大丈夫だよ。有難う」

 まさか立ちながら一瞬寝てしまったなんて言える訳がないので、精一杯の笑顔で答えると、少年もパァっと笑顔になって、その瞬間に何か……とんでもなく恐ろしい気配を感じた。

 もちろん、少年からじゃない。

 もっと上の方か?

 それとも後ろ?

 いや、包み込まれているかのようにあちらこちらから。

 プシュー。

 バスがやってきて、人達は次々とバスに乗り込んで行くが、俺はその場に留まるかどうか迷った。

 こんな可笑しな雰囲気、放ってはおけないと感じたから。だけど、俺がいた所でなにが出来る?

 現に、この重苦しい気配の正体すら掴めずにいるというのに。

 感じるだけで、見えない。

 俺は、こっち側の才能はない。

 もしこの場にゆぅちゃんがいてくれたら……。

 「乗らないんですか?」

 少年が不思議そうに俺とバスを見比べている。

 どうしたら?と周囲を見渡してみて思考が一瞬止まる。

 何故なら、バス停の裏側に石段が見えたから。

 そしてフワリと優しく吹いた風で花弁が舞った。

 「そうだね……乗らないよ……」

 少年と手を振って別れた後、石段の前に立って見上げれば、先が見えない程長く続いている。

 足を踏み入れて良いのだろうか?

 親父と、ゆぅちゃんも呼んだ方が安全だな。

 「あ、親父?詳しくは良く分からないんだけど、ちょっと面倒なことになってるから、ゆぅちゃんも連れて裏山前にあるバス停まで来て欲しい」

 通話で用件をパパッと伝え、親父達を待とうと石段の、1段目に腰をかけた。

 いつもならこんな不用意な真似はしなかっただろうが、徹夜明けのまま学校行って、そこから一睡もできてないから、流石に眠さに勝てなかった。

 だから、2人を待つ間に少しだけ仮眠をとろうと思ったんだ……。

 膝を抱えるようにして座り込み、顔を伏せて目を閉じる。

 フッと周りから音が消えて、意識が遠くなり。

 「おい、兄ぃちゃん起きろ!」

 肩を誰かに叩かれて意識を戻された。

 顔を上げようとしたんだけど、首から背中にかけてギシギシと痛む。

 思ったよりも長い時間寝ていたらしい。

 ゆっくり筋を伸ばしながら顔を上げて、物凄い違和感。

 見えている景色が、可笑しいのだ。

 「なんだ……ここ」

 石段の向こうはバス停。それは変わらないが、まるで暗めのサングラスをしているように景色全体が暗く、前に進もうとしても透明な壁のような物で遮られてバス停まで行けない。その癖振り返って見える石段や、そこにいる人達は色鮮やかで、石段を登ってみれば普通に進めた。

 「あんたもここが何か知らないのか?」

 あんた“も”ということは、ここにいる全員が詳しい情報を持っていないようだな……。

 妙な場所の中に入って来ているが、特になにも感じないから、少なくとも霊的なものではない。

 だったらこれはなんだ?

 この石畳が出現する前に感じた気配は確かに強い霊気だったのに、今はそれも感じない。

 これは下手に動かずに親父とゆぅちゃんが来るのを待った方が良いのだろうが……何故こんな場所が出現したのかも調べなければならない。

 「出して!ねぇ、出してよ!」

 突然大きな声を上げながら、1人の女性が石段の下に広がるバス停の景色に向かって助けを求め始めた。

 透明な壁?をバンバンと叩きながら。

 しかし、通り過ぎていく人も、バス停でバスを待っている人もチラリともこちらを見ない。

 バリアの一種だろうか?

 だとしたら、こちらの音も姿も向こう側からは見えないだろう。

 「落ち着いて。入って来られたんだから出口だってあるよ。ね?」

 女性を宥めるためだけにそんな言葉を声に出しながら、出口が何処にあるのかは分からないんだけどね。と、心の中で思う。

 この透明な壁からは出られそうにないし、まずは出口を探してこの人達を逃がしてから探索してみるか。

 とすると、石段を上がるしかないか……それともここに待機してもらって、俺1人で出口を探す?

 こんな状況で1人行動とか言い出したら混乱させるか?

 1人で逃げる気だろ、とかありがちな展開にもなりそうな?

 そもそも俺は人を引っ張って行けるような器じゃないから、仕切り役が出るのを静かに待つのが1番だ。

 こんな時、ゆぅちゃんなら率先して行動を起こすんだろうな……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ