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ピエロ
弓のようなお月様が昇るある夜の日。冷たい夜風にカーテンがゆらめいた。
「やあ、こんばんは」
ふわりと漂う甘いバニラの香り。手を差し伸べる彼のその姿は、まるでピエロのような格好だった。
「僕と秘密の場所へ旅に出ないかい?」
その場所は仕事も、学校もなく、親もいないという。
迷っていると、差し伸べられたその手は女の子の手と重なり、ひょいと体を引き寄せた。
「君と僕の夢の始まりだ」
体を彼に預け、バルコニーから足が離れる。二人は夜空に飛びたった。
ぴょんぴょんと夜景を跳ねていく。その度に、ひゅうと冷たい風が二人の頬を横切った。
「ほら、見てご覧?」
彼が指差す先に光る大きな物。それはキラキラと光る、空飛ぶ黄金のメリーゴーランドだった。
「これは僕の船。秘密の場所は、これから君と探すんだ。素敵でしょう?」
夜空に浮かぶ満月のようなメリーゴーランドは、二人の未来を煌めかせているようだった。
さあ、旅の始まり、始まり。