2章 入学試験-3
ベルリーナの号令とともに、構えていた受験者達が一斉に動いた。
彼らが狙うのは、ベルリーナの話をぼけっと聞いていた受験者達だ。
木札は麻の紐が通されている。その紐を狙っていくつもの刃が煌めいた。中には、地面に干渉して足場を崩す魔法をかける者もいた。
魔法が重用されるお国柄だけに、ここへの入学を志望するような貴族は、そこまで体術を納めていない。もちろん、何の訓練も受けていない素人に比べれば、みなそれない以上なのだろうが、あくまで素人レベルでの話だ。
戦場で通じるような動きをした十人ほどの受験者達の刃をどうにかするような腕は持ち合わせていない。
木札を奪われた者達があっけにとられている間に、木札を入手した彼らは、ベルリーナの指した光の檻へと到達した。
木札を奪われた受験者の一人が、慌てて檻に向かって炎を放つが、掌サイズの火炎玉は檻にあっさりはじかれた。
あの光の檻、物体は通すが、攻撃魔法を防ぐ魔法だ。低威力の魔法しか防げないだろうが、十分だろう。それでもなかなかに高等な魔法であることに変わりはない。あの魔法をオレが使えるようになったのは、四回目の人生だった。誰が術者かは知らないが、この学校はなかなかのレベルらしい。
一瞬の静寂の後、演習場は一気に混乱に包まれた。
ある者は魔法を唱え始め、ある者は近くの者に掴みかかる。
実に醜い争いだ。
オレとシストラは、やれやれといった表情で顔を見合わせた。
そんなオレ達につっかかってきたのがフレッド一味だ。
「やれ! あの男の木札を手に入れるんだ!」
「はい! ぼっちゃん!」
フレッドの命令で、ノッポの取り巻きが腰に下げたレイピアを抜き、オレに斬りかかってきた。
おいおい、木札の紐を狙うのはいいが、下手に首を切りつけたりしたら死ぬぞ? ベルリーナの説明から察するに、相手に重傷を負わせれば、その時点で不合格だ。わかっているのだろうか。
「あんたは来ないのかよ」
オレはノッポのレイピアをかわしつつ、フレッドを挑発してみた。
「キミはバカか? 主君がそんな危険を冒してどうする」
そうはっきり言われると、ある意味すがすがしい。チームプレイが禁止されているわけではないので文句はないが。フレッドの他にも、即席でチームを組んでいる者もちらほら見られる。
お互いに攻撃しないという意味では、オレとシストラも似たようなものだしな。
「さあさあ、魔法はすごいようだが、騎士剣も習えない平民がどれだけ避け続けられるかな?」
得意げなフレッドくんだが、こんな斬撃は眠っていても避けられる。いつまでもノッポと遊んでいても仕方がない。
オレは突き出されたノッポのレイピアを指でつまむと、無造作に折った。
「はへっ!?」
間抜けな声を上げるノッポの背後に瞬時に回ったオレは、人差し指と親指の間に一瞬だけ発生させた熱で木札の紐を焼き切ると、そのまま木札を奪った。
「なにをしてるノロマ!」
フレッドが怒鳴った時にはもう遅い。木札はオレの手の中だ。
「え? いや、そんなに気を抜いたつもりはうぐぅっ――」
ついでにノッポの延髄を指でツンとつつき、気絶させておく。
「ふあ~。さすが、あざやか!」
そうオレを褒めるシストラの手にもしっかり木札が握られている。
「え? あれ? 俺の木札!」
首をまさぐって木札がなくなっていることに気付いたのは小太りな部下だ。
「シストラもやるじゃないか」
「えへへ~。でしょ?」
シストラは、オレとノッポのやりとに夢中になっていた小太りから、こっそり木札を奪ったのだ。もちろんそのままでは見つかるので、シストラは自身を認識させにくくする魔法を使っていた。狩りなどで有効な魔法だ。
フレッドと無駄話をしたのも、彼女が木札を取る隙を作るためだったのだ。
「シストラの木札を狙わなかったのがあだになったな」
いくら認識阻害の魔法でも、注目された状態で効果を発揮させるのは難しい。
シストラを側室にするため、一緒の学校に入学させようというスケベ心が働いたのだろう。
オレなら、シストラの木札を奪って脅しに使うけどな。それでシストラの好感度がどうなるかは別だが。
「それじゃあお先に」
「ちきしょう! 次の試験でぶちのめしてやるからな!」
オレとシストラは地団駄を踏むフレッドを無視し、争う受験者達の頭上を飛んで、光の檻へと入った。
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