2章 入学試験-2
「それにしても、暑かったよ~」
シストラの額にはうっすら汗が浮いている。
熱は上に逃げるとはいえ、これだけの人数で火炎魔法を使ったのだ。そりゃ暑くもなる。
「オレはこっそり弱冷気で涼んでたから平気だけどな」
オレは小声でシストラに耳打ちをした。もちろん、弱冷気魔法は、試験官にバレないように使っている。
「ええっ!? ずるい!」
「暑いのイヤだし」
「む~。あたしも早く同時魔法できるようになりたいよ」
ほっぺを膨らませるシストラもかわいい。これを見るために、ついついからかいたくなってしまう。
「あいつら余裕だな……」
「ああ……こっちは魔力をかなり使っちまったってのに……」
「特に男の方、汗一つかいてないぞ。どうなってんだ」
受験者の殆どは汗だくで、魔力の消費によって肩で息をしている。
試験官にアピールするため、炎の柱を長時間出し続けた結果だ。こういった魔力の使い方は、瞬間的な爆発よりも魔力消費が激しいのである。オレやシストラは、魔法の理屈を理解しているので、それほどでもないが。
「キミたち、なかなかやるじゃないか」
そう話しかけてきたのは、大きく家紋の入ったマントを身に着けた、軽装鎧の青年だった。歳は俺とほぼ同じくらい。身につけているものは、年季が入っているものの、それなりに質の良さそうなものだ。貴族のボンボンといったところか。おともらしきノッポと小太りを引き連れている。
「あんた誰だ」
ボンボンはオレの問いに答えるつもりなどないらしく、前髪をふぁさっとかきあげた。
「貴族に名前を聞くときは、まず自分から名乗り給え」
「「そーだそーだ」」
とりまきと三人並んでふんぞり返るボンボンを尻目に、オレはシストラ促し、彼らから離れそうとするも、思わぬ機敏さで回り込んできた。
「このフレッド=ディ=ノイエシュタインを無視するとはどういう了見だ!」
「いや、誰だよ」
結局、自分から名乗ってるし。
「この私が君たちの実力を見込んで部下に加えてあげようというのだ。ありがたく思いたまえ」
聞いちゃいない。めんどくさいのにからまれたなあ。
「そちらのかわいい彼女は、妾にしてやってもいいぞ」
こちらの反応などかまわずに、フレッドとやらは勝手にまくしたててくる。
こういった輩は一回の人生で最低二、三人は見る。オレからするとすっかり慣れたものだが、シストラは違ったらしい。
「あたしはそういうのはいいかな~」
「なっ!? 平民の女が貴族に嫁げるのだぞ!」
プライドを傷つけられたのだろう。フレッドは握った手をわなわなと震わせている。
「学校でがんばりたいんだ。ごめんね」
一方のシストラは、大して悪びれもせず、にこっと微笑んだ。
貴族に対してこの態度は、ある程度の常識を持っていれば戦々恐々ではあるのだが、あまりに田舎育ちなせいでそのあたりは身についていない。
なにより、学校の方針が『学内では実力が全て』ということなので問題ないだろう。
「それでは次の試験を始めます」
ベルリーナの号令に舌打ちをしたフレッドは、オレ達から少し距離を取った。面倒なので、いっそ見えないところまで離れてほしい。
「かなり残ったわね。ん~半分くらいにしたいなあ」
ベルリーナが言うように、まだ三百人ほどの受験者が演習場に残っている。
最初の試験で不合格とされたものは、試験官によって強制退場となった。受付時に渡された、受験番号の書かれた木札を没収されているので、この場に無理矢理残ったとしても、次に進むことはできない仕組みだ。
「それではみなさん、受験番号の書かれた木札はちゃんと首に提げてますね? 下げていない人はこの場で不合格にしますからすぐ下げてください。いいですか? いいですね?」
ベルリーナの前振りだけで、この後何が起こるか予想できたものは多いだろう。そっと腰の剣に手をかけている者もいる。いっぽう、ぼうっとベルリーナの言葉を待っている者も多いが、彼らは狩られる側だろうな。
「それでは、木札を二枚持って、あそこに見える光の檻に入ってください。いいですね、二枚きっかりです。多くても少なくてもいけません。また、必要以上に危害を加え合うのも禁止です。それでは始め!」
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