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2章 入学試験-1

◆ 第二章 ◆


 王都カサンドラ。国王の住まう城下町にして、国内最大の都市。物と情報が最も集まる場所だ。

 街の中心をゆったり湾曲しながら貫く大通りには、所狭しと出店が並んでいる。


 王立学校の入学試験には、全国から貴族の子息が集まってくる。金持ちが集まるこの時期は、彼らを狙って商店街も活気づくのだ。

 そんなお祭り気分な街とは裏腹に、試験会場となっている王立学校の演習場は、緊張に包まれていた。演習場と言っても、ただの広い土地ではあるが、街の数ブロック分もあれば壮観だ。千人を超える受験者がいてもなお、その全員が暴れられるスペースがある。

 これで学校の敷地のごく一部だと言うのだから、国がいかに学校の運営に力を入れているかということがわかる。

 それだけに狭き門なわけだが。


 ここにいるのは約千人だが、もともとその十倍はいた。その殆どが一発逆転を狙った平民なのだが、全く魔法を使えないものは受付で門前払いされたのだ。

 つまり、ここにいる約千人は、魔法を多少なりとも使える、一般的には各地方のエリートということになる。


「受験資格を得たみなさん、ひとまずお疲れ様と言っておきましょう」


 風の魔法によりボリュームアップされた声はベルリーナのものだ。

 受験者達の頭上に浮いた彼女は続ける。


「これからが本当の試験です。まずは魔法の実力を見せてもらいます。全員その場で掌を上に掲げ、火柱を出してください。その高さで評価します」


 随分と簡単な試験だ。手始めということか。


「なお、試験の結果は入学後のクラス分けに使われます。試験結果が良いほど、より高等な教育を受けられますので励んでください。では、始め!」


 ベルリーナの合図で、受験者達はそれぞれ呪文を唱え始めた。


「くそっ……炎系は苦手なんだよな」

「俺が使えるのは爆発する魔法ばっかりだぞ。火柱ってどうやるんだ……?」


 困惑している受験者も多くいるようだ。魔法の根幹を理解していれば応用は容易いはずだが、ここにいる十代中盤の彼らにそれを求めるのは酷というものか。とはいえ、掌から上空に火柱を上げる魔法なんてものは、そこいらの魔道書には載っていない。使い道がないからだ。この試験、簡単そうに見えて、ある程度の応用力も試されているということか。

 もちろん、オレにとっては造作もない試験ではある。問題はどの程度の結果を残すかということだ。

 試験結果が入学後のクラス分けに影響するとわかったことは重要だ。シストラと同じクラスになっておいた方が、彼女を護る上で都合が良い。

 となれば話は簡単。シストラと同じことをすれば良いのだ。彼女にはのびのびやってほしいし、実力的に見てもオレが合わせるべきだ。


 周囲を見ると、受験者達の行動は大きく三パターンに分かれる。

 まずは何も考えずに全力を出しているパターン。自信があるか、何も考えていない連中だ。

 次に、どうしていいかわかっていないパターン。彼らは放っておいても良いだろう。

 最後は、全力組の実力を見てから、どの程度の力を出すべきか思案しているパターン。

 最後の組は、次の試験に備えているのだろう。魔力を温存しているのかもしれないし、直接対戦があった場合のために実力を隠しているのかもしれない。彼らは要注意だな。直接対戦でオレに勝てる奴がいるとは思えないが、そういった油断でシストラがピンチになるなんてことは、これまで繰り返してきた人生で何度も見た。オレは決して油断しない。


 さて、最初に全力を出した組を見てみると、炎の高さはろうそく程度から、一階の屋根程度までだ。後者は稀で数人程度。彼らは合格となるだろう。


「みんな実力を隠してるのかなあ?」


 その光景を見たシストラが、オレの隣で首をかしげた。

 彼女がそう感じるのは、オレとの修行で強くなったからだ。


「かもな。シストラは気にせず思い切りやってみたらどうだ?」

「そう? ディータがそう言うならやってみようかな。ええと……『火炎槍(フレアジヤベリン)』をアレンジして……こうかな?」


 シストラは呪文を唱え、空に向かって魔法を放った。吹き上がった炎の高さは、塔の五階ほど。


「おおお! なんだあの娘!」

「ダントツじゃないか!」


 驚きの声が上がる中、オレもシストラとぴったり同じ高さまで炎を吹きあげた。

 呪文を唱えたフリをするのも忘れない。ベルリーナの他にも、演習場の周囲には試験官らしき教員が配置されている。彼らに無詠唱を見られると、シストラへの評価と変わってしまうかもしれないからだ。


「なんだあの二人!?」

「どこの出身だ!?」

「あの服装、平民だよな? 師匠は誰だよ」


 試験受付では大量にいた平民だが、この実技試験に進めた者は殆どいない。結果として平民は、受験者の一割にも満たないだろう。貴族連中は高そうな服を着ていたり、家紋の入った武具を持っていたりするので、一目でわかるのだ。

 様子を見ていたグループも、オレとシストラを見て慌てたのか、一斉に炎を吹き上げ始めた。

 中には塔の四階ほどまでがんばった者もいるが、トップはオレ達だった。


「そこまで!」


 ベルリーナの合図で、吹き上がっていた炎が一斉に消えた。


「やったねディータ!」


「ああ」


 オレとシストラはハイタッチ。この試験でのトップは間違いないだろう。

 うむ、この笑顔を見られただけでも、ここまで来たかいがあったというものだ。


お読み頂きありがとうございます。

励みになりますので、高評価、ブックマークでの応援よろしくお願いいたします。


本日は夕方にも更新予定です。

よろしくお願いします!

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