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エピローグ

エピローグ


 元魔王を倒して全てが終わったわけではなかった。

 森に横たわる実験体の骸の浄化だ。

 そのまま残しておいては、余計な疑いを招くことになる。オレは全ての骸を、あふれ出る魔瘴気ごと焼き尽くしてまわった。

 幸い出現位置は王都から離れていたため、目撃者はいないようだった。数名に見られていたところで、証拠がなければさほど問題にはならないだろう。


 そうして事後処理を済ませ、トーナメント会場に戻ると、ちょうど教員達や数名の学生達が目を覚まし始めるところだった。

 その場はなんとかなったものの、翌日待っていたのは、校長や役人による質問攻めだった。

 オレは「ベルリーナは下級魔族だったが、なんとか倒すことができた」の一点張りで通した。

 かなり疑いの視線を向けられたものの、結果として魔族の陰謀を退けられたとして、国から表彰されることになってしまった。こういった目立ち方はあまり望むところではないのだが、それで済むなら安いものだ。

 問題は今回のことで、シストラに何かしらの危険が及ぶ可能性が少しだけ高まったことだ。


 人生における最初の大きな事件――。


 こんな時、何もしなければよかったのだろうかといつも悩む。

 魔王クラスが近くにいて、シストラの秘密がバレずに済むとは思いがたい。

 現にこれまでの人生で、何もしないことを選択すると、大抵はひどいことになった。

 シストラの持つ『神の心』という強力すぎる光をかき消すには、オレがより強く輝けば良い。


 光を隠すなら、光の中。


 これが、シストラに『神の心』が原因となる害が及ぶのを避ける、最も成功に近い手段のはずだ。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も失敗を繰り返して得た結論なのだから、間違いないと思いたい。

 神々と戦い、知り得た最も大切な情報がある。


 ――神々は運命を定めない。


 全ての事象は必然と偶然の組み合わせで決まる。

 それはすなわち、シストラが幸せな人生を送れる道が必ず存在するということだ。

 最後の人生、必ず悲願を成就させてみせる。

 そんなことを考えながら、寮の自室でベッドに腰かけ、夜空を見上げていると、窓からシストラが入ってきた。


「今日は大変だったみたいだね」

「堅苦しいのは苦手だ」


 元魔王よりも、役人の相手をしている方が疲れる。


「そうだよね」


 優しく微笑んだシストラは、隣に座り、そっと肩に頭を乗せてくる。石けんの香りがふわりとオレの鼻腔をくすぐった。


「ねえディータ……。昨日は私を護ってくれたの?」


 シストラは呟くように言った。


「なんのことだ?」


 小さなことから彼女を護っているのがバレているのはいい。

 だが、彼女の中に眠る『神の心』については知られたくない。彼女が魔族はおろか、世界中の人間に狙われる可能性があるなんてことを知ってしまえば、幸せな人生を送れなくなってしまうからだ。


「そっか……」


 シストラは少し寂しそうな顔をして目を伏せたが、すぐに顔を上げ、決意に満ちた笑顔で言う。


「あたし、もっと強くなるね!」



 なぜ彼女がそんなことを言ったのか。

 いくつか理由は想像できたが、結局問いただすことはしなかった。

 目標を持つことで、彼女が幸せな人生を送れるなら良いと、この時はそう思ったのだ。


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